コロナ危機によって、多くの企業、特に中小企業が倒産や廃業の危機にさらされるなか、「これを機に、ゾンビ企業は市場から退場させ、新時代を創造する」といった声が上がり始めている。しかし、この「ゾンビ企業」論は、コロナ危機で窮地に立たされている人々を追い詰めるのみならず、「日本経済を壊滅させかねない極めて”危険な議論”である」と中野剛志氏は批判。その根拠として、「ゾンビ企業」論の6つの問題点を指摘する。
コロナ危機下での「ゾンビ企業」論は、“不当”で“危険”な議論である
「ゾンビ企業」という言葉がある。おおまかに言えば、非効率であるにもかかわらず、存続している企業の蔑称である。
経済学者の中には、日本経済の長期停滞の原因は、このような「ゾンビ企業」を温存させていたことにあると主張する者が少なからずいる。この「ゾンビ企業」論は、政治家や経済界、あるいはビジネス・ジャーナリズムの間でも、支持者が多い。
もし「ゾンビ企業」論が正しい場合、処方箋となる経済政策は、経営が困難になった企業を救済することではない。むしろ、廃業や倒産を放置し、企業の新規参入や起業を促進すべきである。これは、「新陳代謝」とも呼ばれる。
平成の三十年間において進められてきた「構造改革」は、この「ゾンビ企業」の淘汰、あるいは「新陳代謝」を目指してきたと言ってよい。
現下のコロナ危機において、多くの企業、特に中小企業が倒産や廃業の危機にさらされている。しかし、「ゾンビ企業」論者は、政府がこうした企業を救済する必要はないと主張するだろう。むしろ、経営が成り立たなくなった企業の倒産や廃業を促し、「新陳代謝」を図れば、コロナ危機の終息後、日本経済はより効率的な構造になっているに違いないと考えるのである。
だが、この「ゾンビ企業」論は、次のように、多くの問題点をはらむ極めて危険な議論である。
第一に、そもそも現下の経済危機の原因は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大によるものであって、非効率な企業が温存されているせいではない。
第二に、ある企業が非効率であるか否かを判断するのは、そう簡単ではない。なぜなら、企業のパフォーマンスは、マクロ経済環境に大きく依存するからだ。
一般的に、企業の業績は、景気が良ければ改善し、景気が悪ければ悪化する。好況時にもてはやされていた経営者が、景気後退とともに業績を悪化させると、手のひらを返したように、非難されることがある。しかし、業績の悪化は、その経営者の能力が劣化したからではなく、景気が悪化したせいである。
マクロ経済環境が悪いために企業の効率性が落ちるのは、企業組織や経営者の能力の問題ではない。マクロ経済政策をつかさどる政府の問題である。仮に「ゾンビ企業」を廃業・倒産させても、不況である限り、「ゾンビ企業」はなくなりはしない。したがって、「ゾンビ企業」を減らしたければ、政府がマクロ経済政策によって景気を回復させるしかないのだ。