数多くの情報番組やバラエティ番組に出演して、硬軟自在に的確なコメントをくり出し、全国各地で笑いの絶えない講演会をくり広げ、大学の教職課程では教師の卵たちを前に実践的な教えを展開する齋藤孝 明治大学文学部教授。
むずかしい話も、わかりやすく、ゆかいに、さらに深堀りして教えてくれる『アウトプットする力』は、まさに日本最高峰。その齋藤孝先生が、「話す」「書く」「発信する」が劇的に成長する85の方法を教える。
インターネットの情報でインプット過剰になっている今、勉強でも仕事でもプライベートでも、成果を最大化するには、実は「インプット1:アウトプット9」の“超アウトプット優先”がいちばん効果的。
アウトプットは練りに練った1本より「数」で勝負。齋藤式「15秒」アウトプット術で、成果を最大化する「知的発信法」を身につけよう!

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 この章では、アウトプットをするにあたっての基本的なコツを紹介していきます。

 まず意識していただきたいのは、「はじめに」でも触れた「インプット1:アウトプット9」というバランスのアウトプット優先主義です。

 このことを説明するときに私がいつも思い出すのは、歌手の井上陽水さんのエピソードです。

 井上陽水さんの作品に『ワカンナイ』というタイトルの曲があります。これは、宮沢賢治の有名な詩である「雨ニモマケズ」に対して「ワカンナイ」と語る、いわば現代人からのアンサーソングです。

 陽水さんの『ラインダンス』(新潮文庫)という歌詞集のあとがきに、この曲ができあがった経緯について作家・沢木耕太郎さんが触れている文章があります。

 あるとき、沢木さんに陽水さんから電話がかかってきて、「『雨ニモマケズ』ってどんな詩だったっけ」と聞かれたそうです。

 沢木さんは本屋さんを巡って詩集を探し出し、折り返し電話をかけ、詩の内容を読み上げました。しかし、陽水さんは、ふんふんとうなずきながら聞くだけ。電話越しながらも、メモを書き留めている様子が伝わってきませんでした。

 沢木さんは心配になって「書き留めなくてもいい?」と尋ねるのですが、陽水さんは「いいんだ」と返します。

 さらに沢木さんが、詩を書き起こしたものを送ろうかと提案しても、陽水さんは「間に合わないからいい」と答えます。

 実は、この時点で陽水さんはレコーディングに入っており、その場で曲をつくらなければ間に合わない状況だったのです。

 資料を探そうにもインターネットがない時代ですから、友人の中で最も宮沢賢治の詩について知っていそうな沢木さんに電話をかけたわけです。

 電話口で詩を読み聞かせてもらっただけで、そこからのインスピレーションで1曲の歌詞を書き上げる。これは井上陽水という天才だからこそなせる技なのかもしれません。ただ、これが私たちにとって理想のアウトプットの姿であることは確かなのです。