スタートアップでは1つのプロダクトにリソースを集中することが常道とされています。
 事業の複線化はリソースの分散に繋がり、経営の難易度を格段に高めることになります。
 そうした前提を踏まえてなお、スタートアップが事業の複線化に踏み切るにあたり、検討すべき5つのポイントについて考えます。

Photo: Adobe Stock

共通性の過大評価と個別性の過小評価

朝倉祐介(シニフィアン共同代表。以下、朝倉):今回は、スタートアップにおける事業の複線化について考えてみたいと思います。北米のスタートアップでは、基本的には1つのプロダクトに集中し、成長に専念することが常道とされているように見受けられます。

一方で、日本のマーケットに特化している国内スタートアップの場合、単一プロダクトのみだとどうしても市場規模の限界が見えてくるといった事情もあり、事業の複線化を試みる経営者が少なくないのではないでしょうか。

事業の複線化は簡単なことではありませんが、それを踏まえてもなお、複線化への検討を進めるスタートアップを想定したうえで、留意すべき5つのポイントに考えたいと思います。

まず1つ目が、複線化に際して、事業の共通性・個別性を的確に捉えられているか。2つ目が、経営チームにケイパビリティがあるか。3つ目が、組織マネジメント、4つ目が、内部管理、そして5つ目が投資家コミュニケーションですね。順を追って考えていきましょう。

村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):当然ですが、既存事業に加えて、新たにビジネスを立ち上げるのは、容易なことではありません。

既存事業は一定程度成功させられたとしても、新たに異なる事業を行うというのは、ゼロから起業するのと同様に大変なことです。「こういう成功体験があるから、新しいビジネスも成功するんだ」という思惑は通用しないことがほとんどです。

小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):1つ目のポイント、「共通性の過大評価、個別性の過小評価」は実際によく見ますよね。2つの事業の共通性について過大評価をする一方、それぞれの事業の個別性については過小評価してしまうというのがありがちなパターンです。

自分たちの勝ちパターンが横展開可能だと思いたいという気持ちは十分に理解できるのですが、それぞれの事業の独自・個別性は過小評価すべきではありません。

村上:例えば、「我々の会社はテクノロジーやデザインが優れているから、営業部をもってすれば売れる」、「ユーザーはこういうものを求めているので、我々が一番早く、上手に作れる」など共通性の過大評価には様々なパターンがあります。

朝倉:スタートアップだけでなく、上場企業にも同様のことが言えるかもしれません。例えば、M&Aの推進に際して、進み始めたプロジェクトの推進に集中するがあまり、自分たちに都合のいい「シナジー」という幻想を作り上げてしまいがちです。

村上:どれだけ会社規模が大きくなっても、この議論は当てはまるでしょうね。共通性を模索すること自体は、間違いではないと思います。例えば、ソニーは「小型でかっこいいものが作れる」という自社特性から複数のプロダクトを産みだしてきました。

このアナロジーは必ずしも間違いではないでしょう。注意すべきは、共通性を過大評価することによって、個別性を過小評価してしまうことなのだと思います。