異なる事業フェーズで際立つ「ノリ」の違い
朝倉:経営チームの話の延長線上ではありますが、3つ目のポイントは「組織マネジメント」です。自社が複数のプロダクト運営に耐え得るような体制になっているかどうかですね。
村上:仮に、既存事業がある程度成熟しているとすれば、新規事業とはフェーズが全く異なります。既存事業はしっかりとKPI管理をしていかなければならないが、もう一方は粗くてもスピード感をもって事業を組み立てていかなければならない。
既存事業に合わせてガバナンスが強化されている場合、フェーズが異なる新規事業を同時にマネジメントするのはなかなか難しいことです。
小林:異なるフェーズの事業に携わる組織の「ノリ」の違いは生じがちですね。
新規事業に取り組んでいる時は、ある意味文化祭の前日のようなノリで、遅くまでワッショイワッショイやって、祭りのような雰囲気が長く続きます。
一方で、ある程度軌道に乗ったビジネスは、もう少し粛々と言うか、細かい機微を磨いていく側面がある。それぞれを反対の立場から見ると、「なんでああいうノリなの?」と互いに違和感を抱くことが、大きくなった組織で異なるフェーズの事業を行う際に生じがちな問題の1つです。
朝倉:大企業の新規事業開発でもよくある話ですね。同じ会社でも、異なる熱量で異なる事業に取り組む以上、物理的な場所も含めて、組織をまるごと綺麗に分けてしまったほうがいい。
また、リソース配分についても考えなければなりません。エンジニアや営業機能を新旧の2事業が共有していたりすると、上長は各自のリソース配分に苦心することになります。放っておくと、当初の目論見とはズレて、なし崩し的にどちらかの事業にリソースが偏ることもありますし、それによって組織内での不満も蓄積します。
小林:組織マネジメントの問題をより広義に捉えると、取締役会の構成が2つの事業を行うのに適合した状態になっているのかも確認すべきでしょう。
シングルプロダクトの時は、基本的に取締役会は執行の話をしていることが多い。営業、開発、マーケティング等のリーダーが執行の相談をするといったように。
朝倉:実態として、開発会議や営業会議として機能している取締役会ですね。
小林:はい。事業が複線化すると、「リソース配分はこういう傾斜でよいか」、「それぞれの事業でどのようなマイルストーンを置くのか」、「投資は継続すべきか」といった判断が求められるようになります。
取締役会のメンバーはある日突然変わったりはしないため、新しい事業を展開し始めてからも、取締役会のメンバーはほぼ既存事業の人、という不一致が生じるケースはよくあります。
村上:オススメは、事業を複線化する際に、取締役会自体も何らかのアップデートをすることです。メンバーを入れ替えたり、運営の仕方を変えたりすることですね。
1つ例を挙げると、既存事業は盤石だからハイレベルなKPI管理を行う、などと方針を決めることです。「既存事業は取締役会ではなく執行レベルの会議でモニタリングすれば十分なので、これからの取締役会では全社のリソース配分と新規事業の戦略を議論しましょう」など。何かしらの決め事を作ることですね。