「参謀」にとって、挨拶は武器である

 これには鍛えられました。365日24時間フル稼働して、先の先を読んで行動する上司に貢献するためには、上司のさらに「先」をいかなければならない。指示される仕事をこなしたところで、「プラス・マイナス・ゼロ」の評価にしかなりません。

「あれはどうなった?」などと聞かれようものなら、「お前は仕事をしていない」「役に立っていない」ということ。だから、否応なしに、「もっと先を読んで、しかるべき手を打っていかなければ……」という意識を植え付けられたのです。

 私が第一に心がけたのは、実にプリミティブなことでした。
 社長が出社して一息入れた頃合いを見計らって、長くても1分足らずの挨拶に伺うことを習慣にしたのです。挨拶を侮ってはなりません。これを率先して行うことによる、社長との「距離感」と「時差」を縮める効果は絶大です。

 それまでの上司は目の前に座っていましたが、大組織トップの社長室は“奥の間”ですから、物理的にも感覚的にも距離感が全然違います。しかも、社長は威圧感のある人物でしたから、近寄りがたい。こちらから「先手」を打って近づかなければ、どんどん距離は広がる一方です。

 こんなときには「挨拶」こそが武器になります。にこやかに「挨拶」をして腹を立てる人はいませんから、毎日それを続けることによって、自然と距離が近づいていくのです。

 もちろん、社長との間にはホットラインが繋がっていますから、社長はいつでも私を呼びつけることはできます。しかし、それは「待ち」「後追い」の姿勢であって、私が「先手」を打った場合と比べて「時差」が生じてしまいます。

 だから、1日の仕事のスタートに挨拶に伺うときに、社長に確認・質問すべきことを用意しておく。何もなければ、その日の重要案件を確認する。そのようなコミュニケーションを取っておけば、社長から、その場で重要な指示をされるようになります。それだけでも、「先回り」することになるわけです。

 しかも、このような姿勢を示すことが、「信頼」にも繋がります。これは後日談ですが、ある役員が「荒川は、朝一に必ず挨拶に来る。前向きなヤツだな」と社長が言っていたぞ、と教えてくれました。朝一番の挨拶という「小さな習慣」は、絶大な威力を発揮するのです。