リーダーの「脳」と自分の「脳」を同期させる
次に徹底したのは、社長に上がってくる決裁文書の精査です。
決裁文書のかなりのものは、いったん私のもとに届きます。ここで、私に求められているのは、その決裁文書に、社長が意思決定できるだけの情報が過不足なく盛り込まれているかを確認することです。社長が最短の時間で最高の意思決定ができるようにサポートするのが私の役割だからです。
プロジェクトの提案であれば、そのリスクやその他関連情報など、社長が気になるであろうと思える、さまざまな観点から決裁文書をチェック。不明点や不足点があれば、出来る限り電話で済ますのではなく、担当部署に足を運んで情報を聞き出しました。そのほうが、現場との関係が深まりますし、きめ細かいコミュニケーションができるからです。
そして、意思決定できるだけの情報を補充したうえで、社長に上げます。
ところが、万全を期したつもりでも、社長に呼ばれて「これは、どういう意味だ?」「このデータはないのか?」などと質問を受けます。それに即答できなければ、決裁文書は突き戻されます。「これでは意思決定できない」ということで、私の仕事が至らなかったということです。
また、それ以外の文書については、承諾・非承諾のサインが付されたり、時には何か理由があって、一部分に「△」や「?」のマークが付されたりした状態で、すべて私のもとに降りてきます。
そのすべてが勉強になりました。このプロセスを毎日のように繰り返すことで、「社長が意思決定するために必要な情報は何か?」「社長はどういう観点で意思決定をしているか?」といったことが、少しずつ把握できるようになっていくのです。社長の「脳」と、私の「脳」が同期し始めると言ってもいいかもしれません。
しかも、社長のもとには全社から情報が上がってきますから、このプロセスによって、自然と社内全体の生々しい動きも手に取るようにわかってきます。そのすべてを社長に報告するわけではないので、細かい現場の動きについては、だんだん社長よりも私のほうが詳しくなっていくわけです。
リーダーの「先回り」をして、準備を整える
これが、私の武器になりました。
たとえば、ファイアストンとの買収交渉過程とPMI(経営統合)過程において、なんらかの問題が浮上したら、私がストックしている現場の情報のなかから、社長の意思決定に役立つものを即座に提供することができます。
あるいは、即座に関係部署を特定して、最新情報の収集に走ることもできます。社内調整のために必要と考えて、関係役員との会議のセッティングを進言するのも仕事でした。
社長の「脳」と同期していれば、社長が進もうとしている方向をかなりの確率で察することができます。社長の指示を待つまでもなく、「先回り」することができるようになるのです。
もちろん、完璧な対応ができたわけではありませんが、私が「先回り」をして用意したレールを進みながら、的確な意思決定を迅速に下されたときには、参謀として腕が上がったように感じたものです。
社長(リーダー)の最重要任務は「意思決定」です。
つまり、社長を最大限にサポートするためには、参謀が、意思決定に必要な材料をすべて揃えて提示する必要があるということ。リーダーの後ろをくっついていく単なるフォロワーは、「できる部下」という評価がせいぜいのところで、参謀役として頼りにされることはないということです。
もちろん、リーダーに頼りにされる参謀もフォロワーに変わりはありませんが、フォロワーシップを発揮するためには、リーダーの「先」をいかなければならないことを理解し、そのために知恵を絞り、汗をかいています。つまり、単なる「部下」と、頼りにされる「参謀」では、フォロワーシップという概念の捉え方が違うのです。
【連載バックナンバー】
第1回 https://diamond.jp/articles/-/238450
第2回 https://diamond.jp/articles/-/238449
第3回 https://diamond.jp/articles/-/238448