日本テレビは、2020年度の『24時間テレビ「愛は地球を救う」』のチャリティー用Tシャツ(チャリTシャツ)のデザインを小松美羽氏が担当すると発表した。神獣など聖なる領域の世界観を表現する世界中から注目されている現代アーティストだ。本連載では、小松氏の著書『世界のなかで自分の役割を見つけること』から、彼女のメッセージをお伝えする。

アートに国境はない。現代アーティスト・小松美羽がイスラエルで見つけた「祈り」の根源

アートに国境はない

「日本の伝統文化」と言うけれど、実は地球の歴史の一つのピースにすぎないと思っている。

 有田焼は日本の伝統文化だが、磁器は中国やヨーロッパとつながっている。

アートに国境はない。現代アーティスト・小松美羽がイスラエルで見つけた「祈り」の根源

 着物は日本の伝統文化だが、奈良の正倉院の献上品を見れば、中東からきた模様がアレンジされていることがわかる。

 だから「日本の伝統文化がすごい」とか「中国の文化を尊敬する」とか「なんといってもヨーロッパだ、いや中東だ」とかじゃなく、すべてを地球の遺産のピースとして通じ合えたらいいと思う。

 また、さまざまなピースを和の力で一つにまとめ上げる「大和力」で、モザイクのように美しいものをつくり出せたらすてきだ。

 それには、たくさんのピースを知っていたほうがいい。日本のピースでも、知らないものはまだまだあるし、知れば知るほどもっと知りたくなる。輪島塗も素晴らしいし、京都の染め物も奥深い。

アートに国境はない。現代アーティスト・小松美羽がイスラエルで見つけた「祈り」の根源

 二〇一六年に軽井沢で、G7長野県・軽井沢交通大臣会合が行われた際は、各国の女性大使もしくは男性大使のパートナーへの贈り物として、私がスカーフをデザインすることになった。博多織の職人さんや岡野博一さんと、あれこれ相談し、知恵を絞った。

 つくったのは、日本風のデザインのスカーフ七枚ではない。一点一点違う、その国の国鳥の羽の色で染め上げたのだ。

 私の名前も「美羽」で羽がついている。鳳凰はフェニックスとも言われる神獣だし、キリスト教で神の化身とされる鳩も、見えない世界からの使者だ。

アートに国境はない。現代アーティスト・小松美羽がイスラエルで見つけた「祈り」の根源

 二〇一六年、私はイスラエルに行った。

 その年、ニューヨークの4ワールドトレードセンターに私のライブペイント作品が所蔵されることになったのは、杉原千畝さんのご子息である杉原伸生さんのご紹介があってのことだった。

 杉原千畝さんといえば、第二次世界大戦中にナチスに迫害されていたユダヤ人に「命のビザ」を発給し、大勢の命を救った人だ。ニューヨークにはユダヤ人も多く、彼らにとってホロコーストは遠い歴史ではない。

 そういうご縁があったし、手島佑郎先生からユダヤ教を学んでいるし、宗教はすべて一つの真理にまとまると思っているから、キリスト教、ユダヤ教、イスラム教の聖地エルサレムは、一度は旅をしたい場所だった。

 私の母は神社仏閣も好きだが、日曜日に近所の教会でクッキーを配っているというとき、「日曜教室に行って、お菓子をもらいながらお話を聞いてみれば?」と言う人だった。

 だから、キリストがヨルダン川で洗礼を受けたという話は、なんとなく聞いたことがあったし、手島先生のおかげで、ちゃんとした知識もついてきていた。

 実際に足を運んでみると、ヨルダン川は茶色くて小さかった。「小川レベルの大きさだな」と思ったが、やはりいにしえに思いを馳せると感慨深かった。

 私はデニムの裾をまくり上げて足だけ水に浸け、ぼんやりヨルダン川の向こう側を見ていた。

 川の向こう側は、地元の千曲川の向こう側よりもずっと近い。川の向こう側に子どもだけで行けるのは、中学生からだったことを思い出した。

 イスラエルは兵役があるから、私より若い子たちが軍服を着て、普通に銃を持って歩いている。人を殺せる道具を持ってお昼を食べたり、コーヒーを飲んだり、普通にすごしている。

 ヨルダン川にも警備のための若いイスラエルの兵士がいて、しっかり銃を持っている。そして、川の向こう側のヨルダンにも若い兵士がいて、いつでもやり合えるように銃を持って立っている。

 「ざぶざぶ歩けば渡れそうな川だけど、私がもし渡り出したら、ヨルダンの兵士に殺されるんだろうな」と思った。

 宗教の隔たりは日本で思っている以上に大きくて、その先っぽで銃を持って立たされているのは若い子だった。

 そのとき、ふと気づいた。ヨルダン兵のいる小屋の屋根に、白い鳩がいる。鳩は街中にもたくさんいたけれど、こんなところにいるなんて。

 「まるで聖書の世界だな」と見ていたら、突然、鳩が飛んだ。

 飛ぶ姿に太陽が重なって、聖なるものに見えた。鳩はあっという間にヨルダン川を越え、今度はイスラエル兵のいる小屋にとまった。

 おそらく川を行き来して暮らしている鳩にとっては、川の向こう側もこっち側もない。

 そのとき、私は自分が描いている神獣やスピリットの本質、国境を超えた彼らの祈りの根源みたいなものが見えたような気がした。

 どんな国も、同じ地球のエリアにすぎない。

 どんな星も、同じ宇宙のエリアにすぎない。

 どの文化もどの宗教も尊く、動物も人も魂は同じだ。

 差別のない平和な祈りの世界を、神獣と守護獣が守っている。

 私は、そんなつながった世界に、この世界をつなげたい。

 私は、川の向こう側がない世界をアートでつくり出したい。

 朝起きると、私は毎朝、お線香をたく。お祈りをする。

 「すべての宗教の神さま、感謝申しあげます。私の徳分を捧げます。どうか、私の絵でつなげてください」

 私は絵を描く役割で、それを果たすためには描くべきものがいっぱいありすぎ、スランプになっている暇はない。

 迷いはない。不安はない。

 今日も描く。明日も描く。明後日も描く。

 私は、ずっと絵を描き続ける。

 あなたは、何に祈るだろうか?

 あなたは、ずっと、何をするだろうか?

 あなたの魂はその答えを知っているから、あなたにもどうか思い出してほしい。