そもそもの出発点、「問題は何か」を把握する

 現状把握では、まず「問題」にフォーカスすべきです。それがそもそもの会議の出発点だからです。ただ、「問題」の質はケースごとに異なりますので、場合別に見ていきましょう。

セールスの場合:相手の問題(ニーズ)を見極める

 問題がきちんと把握できればモノを売ることは難しくありません。逆に、問題が把握できなければ、売れるものも売れません。身近な例で考えてみましょう。

 例えば、冷蔵庫の買い替えを検討しているお客様がいたとしましょう。下手なセールスパーソンは、商品にフォーカスします。相手の問題に着目しないまま、「大容量、省エネ、野菜室」がいかに素晴らしいかなど、熱心に商品のアピールだけをとうとうと伝えます。

 一方、優秀なセールスパーソンは、「問題」にフォーカスします。軽々にセールストークを始めるのではなく、まずは相手にヒアリングをかけます。例えば、大家族で夏は麦茶をたくさん飲むとか、冷蔵庫で作る氷だけでは間に合わなくて近くのコンビニに買いに行っている、などといった悩みを聞き出します。

 そのうえで、まだ冷蔵庫の話を出さずに、問題に関する話を始めます。

「夏場も暑い中、わざわざコンビニに氷を買いに行くのは大変ですね。経済的にもご負担かもしれません。ちなみに、コンビニの氷はなかなか高価で230円くらいしますが、1日で麦茶を1人8杯飲むとすると、5人家族で、1日1袋以上使ってしまうかもしれませんね。とすると、1カ月7000円程度の出費で、夏場の2カ月だけで1万4000円、一般的な冷蔵庫の寿命10年に換算すると14万円。氷代だけで高性能の冷蔵庫が1台買えてしまいますね」

 こうして問題がどれくらい大きなものかを、改めてお客様に認識してもらったうえで、自分の商品がどのように問題を解決するかを話します。

「氷が足りなくなることは冷蔵庫の製氷時間に関係します。通常の冷蔵庫では製氷は3~4時間かかります。しかし、この冷蔵庫では1.5~2時間程度で製氷できます。その時間が縮まるとどうなるか。わが社の冷蔵庫では、1回の製氷でグラス10杯分の氷が作れます。5人家族であれば、1人が1時間に1杯の麦茶を飲んでも氷は足りなくならない計算です。大人が必要な水分量は1日2.3~2.5リットルと言われており、その何割かは食物からとりますので、1人グラスで1日10杯飲めば十分でしょう。朝7時から1時間に1杯麦茶を飲み、夜11時に消灯するまで15杯、この冷蔵庫があれば、おそらく氷を買い足さなくても大丈夫です」

 商品の話はほとんどせず、顧客の問題にフォーカスして、その大きさをアピールし、どうやったら解決できるのかを示すわけです。大容量だろうが省エネだろうが、顧客の問題に関係ない機能をいくらアピールしても、相手には刺さらないということです。

 問題をニーズと置き換えることもできます。「ドリルを買う人が欲しいのは、ドリルではなく“穴”である」というマーケティングの格言がありますが、顧客のニーズは穴を開けることであって、ドリルそのものではないわけです。どのような穴を開けたいのかを知らずして、ドリルを売ることはできません。

 何らかの問題を解決する(ニーズを満たす)ために不可欠なのは、相手の抱えている問題を正確に理解することです。だからヒアリング能力がとても大切なのです。

 というのも、顧客自身が問題を把握しているとは限らず、無意識のうちに不便だと思っているだけであれば、言語化できないからです。冷蔵庫の氷の問題にしても、冬場に急に聞かれてもパッと思いつかないかもしれません。

 その人にとっては冷蔵庫や氷の問題は、日常あまたある不便の1つにすぎないわけで、その問題が起こるメカニズムも知らなければ、解決策のアイデアもない状態です。ですが、セールス側は、その問題のエキスパートです。「冷蔵庫にまつわる悩み」が飯のタネなわけで、問題のメカニズムも解決策も熟知しています。そのプロが適切なヒアリングをかけることで、お客様が抱えている問題をえぐり出すことができるのです。

 直接対面するときほど、相手の問題を深部まで知ることのできる機会はありません。メールでは細部の説明まで書くのが億劫でも、面と向かってなら心中を吐露してくれる可能性が高まります。相手の抱えている問題の全貌を聞き取れるようにしましょう。