この体験会では参加者全員にビットコインを配布した。お金がもらえるのだから悪い話ではない。QRコードを読みとってもらい、ウォレットをスマホにインストールしてもらう。そして講師が参加者全員にビットコインを送金する。
「おっ! おいっ!! 来たぞ! 来たーーー!!!」
ビットコインがスマホに届いたメンバーの中には、直前まで「なんだよこんな体験会」と斜に構えていたのに、実際に着金すると興奮をあらわにする人もいた。
「こんなことだったら俺にもわかるし使える」
体験してしまえば簡単なことだったのだ。
この体験会で使ったビットコインは、2016年に起こった熊本地震の被災者支援団体に寄付した。ビットコインで寄付を受けつけている口座があったのだ。当時、ビットコインで寄付する人は少数だったので、体験会のたびに寄付の金額は増えていった。
体験の喜びがやる気と才能を引き出す
体験を通して技術の性質がわかってしまえば、あとは簡単な話だった。興味を持つ人がひとりまたひとりと手を上げ、ブロックチェーン関連のプロジェクトへの参加希望を表明した。
そしてその中から外部のブロックチェーンの勉強会に出て、そこで行われるコンテストで上位に食い込むメンバーも出始めた。COBOL(従来からあるメインフレームで使われる言語)の技術者しかいないと思われていた金融の事業部から、ブロックチェーンのエンジニアが誕生したのだ。
さらに私たちは、全事業部に関係するクラウドについても、積極的に体験型の勉強会を実施した。いままでインフラエンジニアとしてハードウェアやOSのセットアップを手間ひまかけて行っていた人ほど、簡単にインスタンス(クラウド上の仮想マシン)が瞬時に立ち上がることに驚きの声を上げた。
体験型の勉強会のすぐ後に事業部に戻って自分が感じた興奮と、以前と比べてどれくらい短期間で環境が作れたのかを熱弁するエンジニアも出てきた。
体験の喜びがやる気とひとりひとりの才能を引き出すのだ。だから私たちは、「理論よりも実践を」をスローガンに、次々と体験型の勉強会を開いていった。
「セゾン情報システムズはどうしてこんなに短期間で技術力が上がったのか」とよく聞かれるが、最大の秘訣は、こうした体験がもたらす感動の力を最大限活用したことにあるのだ。