秋山 実際に聞いたわけでもないのに、外交官が話す外国語は、母国語のようにぺらぺらというイメージを抱きがちですね。
片山 これは強調しておきたいのですが、あくまでも大切なのは誤解を生まない正確な表現と正しい文法で、相手に「正確に伝える」ことです。外国語をネイティブのように一見格好よく操ることではありません。
時として、外交官は「ネイティブはそんな言い方をしない」というような話し方をする場合があります。でも、それでいいのです。ネイティブと用いる単語や文章構造が違ったとしても、発話者が置かれた基本的な立場、事実関係などが微妙なニュアンスも含めて、正確に相手に伝えられ、相手に理解してもらえること。そして、相手の発言を正確に聞き取り、理解し、記憶し、報告する能力が外交官にとって必要な語学力なのです。
たとえば、英語にagree(同意する)という動詞があります。日常会話では、「あなたの意見に賛成です」というくらいの意味で、普通に使われていて、これといって問題のない言葉だと思いますが、外交場面ではしばしば法的拘束力を持った「合意」といったニュアンスを含み責任問題を生じかねないので、単なる文書中では極力使わないようにしています。
外交官が使う英語は正確だけれども、ちょっと現代風の言い方やネイティブのこなれた言い方とは違ってきます。
秋山 どうしても英語で話さなければならないような場で、流暢にしゃべる人を前に萎縮してしまうビジネスパーソンは少なくないと思います。ただ、それらしく聞こえるような英語を話そうと努力するより、おっしゃるように「正確に伝わる英語」を話すことを心がけるのがよさそうですね。
片山 あとは、結局場数を踏むしかないのですよ。しゃべれないからといって小さくなっていると、ますますしゃべる機会を自分でつぶしてしまいます。語学力のうちのある程度までは度胸だと思います。
秋山 私も、英語で上手に表現できないときは、「いや、ぺらぺらしゃべるのではなく、正確な、『外交官的な英語』を話しているのだ」と思うことで乗り越えることにします(笑)。