片山 パーティーなど一見無駄のように見えますが、情報収集や関係構築に大いに役立ちます。たとえば各国それぞれ、アメリカなら7月4日の独立記念日、中国なら10月1日の国慶節(建国記念日)というふうに、「ナショナル・デー」があります。その日には大使館でパーティーが行われますから、それにはできるだけ出席する。
世界には約200カ国あります。そう考えると、単純計算で毎週3~4日はどこかしらのパーティーが行われているということになりますね。実際にはすべての国がやっているわけではありませんが。それに加えて、ホームパーティーのようなもう少し規模の小さいパーティーなどもある。それにもできるだけ出席するようにします。
秋山 そんなにたくさん……。すべてのナショナル・デーのパーティーに出席するのは大変ですね。ただ、そうしたパーティーが外交上でも重要なのですね。
片山 パーティーには、外交官だけでなく、政府の要人、企業経営者や役員、アカデミックな分野の研究者、芸術家など、さまざまな人たちが招かれています。
アポイントを取って行う公式の会談や面談では聞けないようなことも、こうしたパーティーでの立ち話で聞いてみることができます。そうしたパーティーに何度も行って、よく見かける人や、事情通の人、定期的に話を聞くといつも重要なことを話してくれる人などと接触するように心がけるのです。
秋山 それは逆にいえば、自分も相手にとって定期的に情報交換をするのに足る人であると思われなければならない……とても大変なことですね。
片山 信頼関係を作るということは重要です。また情報はギブアンドテイクですから、情報をもらうだけではいけないですね。相手からこの人物は役立つと思われなければ、関係は長続きしません。
外交官はどうやって
「語学力」を高めるのか
秋山 そうした日々のコミュニケーションのためにも、また、最初のお話にあった多国間交渉のような国際的な会議などの場面においても、高い言語運用能力、語学力が必要不可欠だと思います。外交官の卓抜な語学力はどのように養成されるのですか。
片山 語学研修は、入省後の4~5月に外務省研修所で毎日行われる前期研修に始まり、それ以降、本省で配属される課室で実務を行いながら週2回本省で受ける中期研修、在外研修に出かける前の3カ月間の研修所での後期研修、そして2~3年におよぶ在外研修(留学)と、大まかに言うとこんなプロセスをたどります。
あとは業務と日頃の努力です。家庭教師をつけている人もいます。もともと小さいときに海外にいたりすると有利だと思われるかもしれませんが、主要言語以外は、大学の第二外国語で学んだり、外務省に来て初めて学んだりするケースも多いのです。
私が外交官になった80年代は、上や下の期に英語のバイリンガルの人もいましたが、同期は26人全員が、入省2年目に赴いた海外研修で「初めて海外に行く」というような時代です。
また、言語だけではなく、その国の文化や歴史、思考様式を学んだり、自分の言いたいことをきっちり整理したりする力も必要です。「あのことやこのことがうまく言えなかった」と悔しい思いをすることは数え切れないくらいあります。次に同じ場面があったら、絶対にちゃんと伝えるべきことを伝えようと、考えを整理し、その場で言うべきフレーズを何度も何度もノートに書いて暗記するなど、みんな地道な努力をしているのです。