前々回(第27回)までは、現状を把握し、問題を掘り下げるためのコミュニケーションのコツを紹介してきた。今回からは、いよいよ、グローバルな低文脈のコミュニケーションに欠かせない、ロジカル・コミュニケーションについて言及していく。
米国の大学やハーバード・ビジネス・スクールで学び、総合商社で丁々発止のビジネスを行ってきた経験を踏まえて、現在、日本人の英語力向上とグローバル・リーダーの育成に携わる著者が、最新作『グローバル・モード』から抜粋してそのコツを紹介する。
究極の真実でない限り、断定的な物言いはしない
高文脈に慣れ切った私たちの話し方の特徴としては、ときに断定的すぎたり、逆に曖昧すぎたりします。前提となる価値観が共有されているからこそ断定でき、また、文脈を共有しているからこそ微妙な言い回しでも意図が伝わるからです。
グローバルな低文脈の環境においては、話し方を逆方向にシフトしなければなりません。「安易に断定せず、あらゆる可能性を残す」と同時に「直接的で明瞭、論理を重んじるシンプルな表現」によって、様々な文化背景をもったチームのなかで誤解のない有効な発言を狙うのです。
まず、できることは、1つ1つの発言の性質をはっきりさせることです。個人的な意見なのか、客観的な事実なのか、だとすれば、その情報ソースは何なのか、論拠は何なのか。自分で話す際も、これらを意識する癖をつける必要があります。
会議やミーティングで効果的なタスクを割り出すためには、参加者の発言や情報が確かなものであるかどうかが問われてきます。
「最も美しい日本の景色は富士山です」と言う日本語を聞いたら、皆さんはどう感じますか。少し断定的だなぁとは思いつつも、誰でも知っているし、日本一高い山だし、浮世絵も有名だし……と、様々な文脈も手伝って、他にもたくさん美しい場所があるけど、富士山が1位と言われたらしょうがないね、という感覚になるのではないでしょうか。
英語に直訳すると「The best scenic spot in Japan is Mt. Fuji.」(→最も美しい日本の景色は富士山です)となりますが、学校で習った通り、最上級は「one of the」を使った方がよいので、「One of the best scenic spots in Japan is Mt. Fuji.」(→最も美しい日本の景色のひとつは富士山です)とすると収まりがよくなります。
この「Best」と言い切らず、「One of the best」と言うところが、グローバル環境で「断定を避ける」「他の意見と共存する余地を残す」慎重さなのです「Beautiful」は主観であり、多様性を重視する環境であれば、様々な「beautiful」が存在します。
つまり、「富士山がbest」だと言い切ることは、唯一絶対、最高の美しい場所として、他の意見の存在すらを否定することにつながるくらい強い表現なのです。そこで「One of the」を使うことで、自分の意見が絶対的でないことはわかっています、他の基準を持っている人もリスペクトしますよ、と謙虚さとオープンさを表すわけです。
日本のビジネスシーンで敬語が期待されているように、グローバル環境で求められているのは、「他の意見と共存できる話し方」です。無邪気に自分の考えを断定口調で話してしまうと、他の可能性を考えることのできない頑迷な人だと思われかねません。
例えば、「病気で会社を休む」ということについても、多様な考え方があります。日本人からすれば、体調管理は社会人の常識であり、風邪をひいたのは自分のせい、だから休むならせめて有給休暇を使うべきだ、という暗黙のプレッシャーがあるかもしれません。
しかし、海外には「シックリーブ」という、病気になったら休んでいい日数が有給休暇と別に付与される場合が多々あります。「人間はマシンじゃないから、そりゃ、風邪もひく。むろん、本人の責任は一切ない」というスタンスの人も一定数いるからです。
当然、どちらが正しいかというものではなく、単に考え方が違うだけです。公私に対する感覚の違いかもしれません。お互いの文化的背景があったうえでの行動様式の違いであって、どちらが正しいと決めつけることはできません。
自分の考えに自信があるのと同様に、相手も自分の意見に自信があります。ジャイアンツファンとタイガースファンは相容れない違いがあるかもしれませんが、「自分のチームを好きな気持ち」自体は同じであり、野球ファンとして互いにリスペクトできるのではないでしょうか。
そう考えれば、おのずと相手を否定しない話し方をするようになります。それがグローバル・モードなのです。