組織を支える2つの付加的要素
「非公式活動」「道徳の創造」
組織を機能させるには、上記の3つの要素が決定的に重要だが、付加的要素として、非公式組織(インフォーマルな組織)による補完活動というのがある。
事を荒立てずに事前事後に意見調整をする、不満のガス抜きをする、社交の場を作りだす、といったことであり、日常オフィスの内と外(たばこルーム、エレベーター、洗面所、給湯室、飲み屋等)で目にする活動である。社外に出ている公式文書ではこう書いてあるけれど、実は社長の本音はこういうことなんだよ、といった話もこういう場でやりとりされるし、上下関係のない同僚と上司の悪口を言うことで「メンタルがやられる」ことを防いだり、たまたま仲良くなった別の部署の先輩に「そういう仕事を自分もしたい」とアピールすることで、非公式に異動のための事前工作を行うといったことも含まれる。
さらには、道徳の創造が必要である。どんな組織も、目的の共通理解の困難さ、伝達(コミュニケーション)の難しさ、個人の協働意欲が揺れ動く傾向など、常に不安定な状況にある。そこで従業員に信念を持たせ、協働的な個人的意思決定を鼓舞する。組織に対する信念、自分たちが成功するという信念、個人的動機が満たされるという信念、組織に参加する個人の目的よりも、共通目的のほうが優先するといった信念である。これらの存在が協働の基礎として機能する。
社員が迷ったら立ち戻る文言、「クレド」や「フィロソフィー」などもその一種である。(実際には企業理念ではないが、)Appleの"Think different" や、「常にお客様のために」といった一文でわかりやすいものや、日立製作所の創業精神のように、「和・誠・開拓者精神」などのようなキーワードの場合もあるし、何カ条にもわたって細かく書かれているところもある。あるいは本当のところは明文化されずに、カルチャーとして、人々の思考や行動で習慣化されているという場合が多いといえるかもしれない。
オフィスに行くだけで
組織の重要な条件を満たせていた!
これらがすべて働けば、組織を活発に動かすのに必要な条件がそろう。ただし、これらの全体を整合的に機能させるのは難しい。バーナードは、
「公式に、秩序立って、全体を考えることができるのは、ただ少数の天才的管理者、あるいはその職員が鋭敏な感覚を持ち、よく統合されている少数の管理組織の場合に限られる。」
と言っている。確かに難しいのだ。だから、こういった全体の秩序と統合のための知的な思考能力よりも、周囲の忖度に長けている人を経営者にしがちなのも日本企業である。
したがって、うちの会社はとてもそんな状況にないし、優れた管理者もいないと思われた方もおられるかもしれない。しかし、バーナードはこうも言う。
「もし各行為者が、他人が何をしているかを見ることができ、かつ、状況全体を見渡すことができれば、ことさら伝達しなければならぬ分量が少なくなることは明らかである。」