オフィスがなくても
機能する組織の「5つの条件」

 さてそんな企業が、もしオフィスをなくし、人が拡散した状態で働くという形態を選択すれば、どうなるだろうか。これまで保有してきた要素や機能の多くは確実に消えてなくなるであろう。だからこそ、3つの要素+2つの機能の5つを改めて強化していくことが必要と思われる。逆に言えば、もし5つが十分に機能するのであれば、オフィスなどなくても、問題なく組織は動くということだ。

 具体的には、

1 組織全体の目的が明確で、併せて単位組織のレベルにもしっかりとブレークダウンされ、またその連続性が明らかで納得性がある。

2 その組織目的の誘因のレベルが高い。また個人にとっての貢献の見返りとして、経済的のみならず、意味的にもこの組織に貢献したいという意欲が湧く。

3 管理者が、情報伝達のコントロールタワーおよび意思決定者としての機能を十分に果たすことができる。そのための能力と態度を保有している人が管理者として育成され選抜される。

4 公式組織の中で処理しにくい情報や感情の処理を行う機能が充実している(例:オフィスがない場合には、バーチャルな雑談の場*などが機能している)。

5 経営者、管理者が会社としての道徳を明確にし、働く人がその意味を共有し、従っている。

(*)『リモートワークの達人』(ハヤカワ文庫)

 ここまで読まれた方には自明だろう。冒頭に書いた5つのキーワードを敷衍したものだ。

 上記5つの条件が継続的に満たせる会社であればオフィスにこだわる必要はまったくない。さっさと解約してしまおう。一方で、このような条件が満たされないにもかかわらず、家賃費用の削減の魅力や、一時の流行に乗ってオフィスをなくしてしまえば、結果は悲惨なことになろう。

 理想としては、オフィスは実際になくすとはいかないまでも、いつなくしても良いように5つの条件を高める努力をすることだろう(もちろんBCP的な意味においても)。これは取りも直さず、バーナードの欲した“機能する実行型の組織**”を作るということであり、『経営者の役割』からくみ取れるもののうち、特にコロナ後の企業にもっとも有効であると筆者が考えている、「オフィスの機能を整理することをきっかけにした組織改革を実行する」ということなのである。

(**)『経営者の役割』の原題は、『The Function of the Executive』であり、経営者の“役割”を書いた本というよりは、書名だけでなく内容においても、経営を“実行”する人が果たすべき“機能とは何か”について書いた本であると筆者は考えている。

(プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役 秋山 進、構成/ライター 奥田由意)