「ど真ん中」でないからこそ、おもしろい

──最後に更科先生自身のことをお伺いします。更科先生は気負わない雰囲気で「理系・文系を問わずに楽しめる、誰にとってもおもしろい話」を聞かせてくれるという印象を受けます。生物学者としてのご自身のことは、どのように評価しているんでしょうか?

更科 生物学者という自覚はあまりないんです。私がやっているのは分子古生物というもので、化石なんかを扱う領域です。はっきり言って、生物学の世界では傍流の存在で、地球科学と生物学の中間くらいに位置すると言えばいいでしょうか。

 そこには便利な面と不便な面があって、地球科学者にはちゃんとした地球科学者と認められませんし、生物学者にもまともに認められないという側面があるわけです。こんなことを言うと、古生物をやっている人たちに怒られちゃいますけど(笑)。

 ただ一方で、地球科学者からは「生物みたいなことをやっている存在」としてありがたがられますし、生物学者から見ても「ど真ん中でないからこその存在感」はあると思います。

 私の場合は、もともとロックが好きで学生時代はバンドをやっていましたし、作家になろうと思って、下宿を借りて、そこに籠もって小説を書いてみたこともあるんです。でも結局どれもモノにならずに、やめてしまいました。

 大学を出たから一応就職したんですが、結局それも辞めてしまって、その後すぐに大学に戻ったかと言えば、そんなこともなくて、しばらくプラプラしていたんです。

 その後、結果として大学に戻って、気がついたら今みたいになっていた、というのが現実です(笑)。だから、人様に立派なことは言えないんですが、生物学に限らず、いろいろ体験したり、学んだりすることにはそれなりに価値があるかもしれません。まあ、なにはともあれ、私は50年以上生きてきました。それだけでも立派なことかなと思います。

生物の世界において「進化」は「変化」である

──「研究一本でずっとやってきました」というタイプではなくて、いろいろなご経験があったからこそ、気負わずに、読み物としても抜群に面白い「入り口となる本」が出来上がったのですね。

更科 どうなんですかね。もともと、真面目に生きるのがあまり好きではないので、「気合いが入ってない」というところがいいのかもしれませんね。

 余談ですけど、つい先日『あやうく一生懸命生きるところだった』という本を買って読んでみました。ダイヤモンド社はああいう本も出しているんですね。おもしろかったです。インタビューの最後に、別の本を紹介するのも変な話ですけど(笑)。

【大好評連載】
第1回 ベストセラー生物学者が教える「わかりやすい文章」を書くために必要なこと
第2回 学びの意味、教養の価値はどこにあるのか?
第3回 ビジネスにも使える、科学者の「仮説」を立てる方法
第4回 生物の世界において「進化」は「変化」である

生物の世界において「進化」は「変化」である