個人と組織を大きく育てるための
VISION DRIVEN

――『直感と論理をつなぐ思考法』はある意味、クリエイティブになるための方法みたいに読まれがちですが、本当のベネフィットは自分なりの意義をつくれるようになって自信がもてたり、ポジティブな感情が生まれたりするところにあるわけですね。それは、現在のコロナの状況下で塞ぎ込んでいる人にとってはすごく大事になる考え方かもしれません。ほかに依存したり参照するものがない状況で、内発的な動機に基づいて意義を生み出していくという考え方は、個人にとっても組織にとっても、今後は重要になるのではないでしょうか。

佐宗 まさにそう思います。今はどんどん不確実な環境になってきていて、実際問題、経済も1年後にどうなっているか正直わかりません。幸い、企業で働いている人はまだいいですが、そうではない人は仕事がなくなり、失業者も増えています。そういう環境の中でどう生きていくか。

たとえば、なくなったものはとらえ方次第ではチャンスでもあります。不況の時期は新しいものが生まれる時期でもあるんです。リーマンショックのときにAirbnbやWhatsAppが生まれました。もし自分が不安になったときは、それに対して自分で考えたアイデアが次の時代の新しいアプリになるかもしれないんです。

たとえば、「今の環境で自分がやりたいことはないから転職する」というのはおそらく最悪のシナリオです。既存の価値観が揺らいでいる時期は、逆にチャレンジすることで、次のチャンスを掴み取れる可能性は十分にあると思っています。今みたいな状況は、何かを始めるいいチャンスともいえるでしょう。

――今のお話のように、個人が内発的な動機に基づいて動き出してくると、組織も変わらざるを得ないでしょう。個人が動き出し始めると、企業はマネジメントに困ると思うんです。組織でもこうした思考法は有用性があるとお考えですか?

佐宗 テレワークが増えてくると、進捗をいかに共有するかとか、おしゃべりする時間がないから雑談の時間をつくって1ON1ミーティングをやろう、みたいなことになります。でも僕はそれは全然本質的なことではないと思います。「テレワークになるからあらゆる日常の行動やプロセスをすべて共有して前に進めて行こう」というモデルそのものに無理があると思うからです。

大事なことは、同じことをやっているだけで一体感が醸成されるわけではない、ということです。お互いが心からやりたいことがわかっていて、それをお互いに応援し合うとか、会社のチームがやれることをうまく紐づけることです。

日常レベルでやっている表層的なもので生まれる一体感よりも、深いレベル、お互いの真善美やビジョンレベルの共有がされていれば、日常的に同じことをコントロールし続けなくても、人は十分につながれると僕は思っています。

そういう意味では、今のテレワーク環境の中でやりたいことをやっている人は結局パフォーマンスが高い人ですから、お互いのやりたいことをまず可視化するという意味で、ビジョンをチームで共有することはすごく意味があると思います。

プロデューサー的な管理職になるには、ビジョンを共有し、好きなことをどうやったら仕事にできるかを考えることでしょう。相手の強みとか、その人がやりたいことをうまく仕事化できる人がプロデューサーなのです。

ただ、そこで忘れてはいけないことは、自由なことをやれる環境になると、好きなことをできる人はパフォーマンスが上がるんですが、好きなことが見つけられない人は、パフォーマンスが出ませんし、自宅では刺激もないので見つけるまでのプロセスですごく苦労します。ですから、話を聞いてあげるとか、その人が一人で孤立しないようにチームにしたり、誰かとペアをつくってあげるといったケアをしたり、その人のビジョンを承認してあげるような取り組みもマネジメント上では有効なのではないかと思います

新しいマネジメントの基本的な考え方として、まずやりたいことを可視化してチームをつなぐ。できる人には好きなことを仕事にできる環境を整えてあげて、落ちてしまいそうな人にはチームやペアで個別にケアをする。これからのテレワーク時代にパフォーマンスを上げていく組織になるには、こうしたことが重要になると思っています。

――個人レベルでも改めてこういう考え方は必要ですし、組織レベルだとマネジメントする立場の人にとっても、VISION DRIVENの考え方を理解しておくことが重要ということですね。では、最後に、これからの展開について考えていることがあれば教えてください。

佐宗 3つあります。企業文脈では、ESG投資などの流れから企業の社会意義と経済性を両立するためのビジョンを作る必要が出てきています。ビジョンデザインと、経営資源の捉え直しを両立するためには、ビジョンの裏にある真善美を読み取り、それを思想化していく取り組みが必要になります。理念とビジョンを持った会社をさらに増やしていくための活動は、BIOTOPEでこの方法論を発展させる形で実施していきたいです。アカデミック文脈では、VISION思考による変化をしっかりとデータを取って、国内、海外含めて発信していきたいと思っています。そして、最後は教育です。マイプロジェクトとして、「VISION DRIVEN EDUCATION――希望を作る学びを誰にでも」を立ち上げようと思っており、小学校~中学校のお子さんをもつ親御さんや、先生がクリエイティブラーニングを実践できるような仕組みを作っていきたいです。すでに全国の先進的な学校の先生方のコミュニティができ始めたので、ぜひ注力していきたいです。今後この連載でもVISION DRIVEN EDUCATIONについては発信をしていきたいと思っていますので、お楽しみにしていてください。

(インタビューおわり)

佐宗邦威(さそう・くにたけ)
自宅での過ごし方がわからない……<br />と思ったらまず「一冊のノート」を買おう

株式会社BIOTOPE代表/チーフ・ストラテジック・デザイナー

大学院大学至善館准教授/京都造形芸術大学創造学習センター客員教授
東京大学法学部卒業、イリノイ工科大学デザイン研究科(Master of Design Methods)修了。P&Gマーケティング部で「ファブリーズ」「レノア」などのヒット商品を担当後、「ジレット」のブランドマネージャーを務める。その後、ソニーに入社。同クリエイティブセンターにて全社の新規事業創出プログラム立ち上げなどに携わる。ソニー退社後、戦略デザインファーム「BIOTOPE」を起業。BtoC消費財のブランドデザインやハイテクR&Dのコンセプトデザイン、サービスデザインプロジェクトが得意領域。山本山、ぺんてる、NHKエデュケーショナル、クックパッド、NTTドコモ、東急電鉄、日本サッカー協会、ALEなど、バラエティ豊かな企業・組織のイノベーション支援を行っており、個人のビジョンを駆動力にした創造の方法論にも詳しい。著書にベストセラーとなった『直感と論理をつなぐ思考法――VISION DRIVEN』などがある。