[How To]
会議の目的を「議論」と「決断」に絞る

 高画質・高音質で、デバイスを選ばずに参加できるビデオ会議は、明らかにビジネスの世界を変えつつあるテクノロジーの1つです。

 個人的に感じる一番の変化は無駄な時間を減らし、仕事に投入できる時間を増やせたことです。特にコンサルティング業は顕著ですが、「時間あたりの価値提供」にフィーがつく仕事では、使える時間が多ければ仕事量や収入にも直結します。1日の時間をどのように配分するかを考え、より効率的に仕事を進める。まさに自律分散型の時間の使い方につながっています。

 さらにビデオ会議になることで、「対面式会議」と比べると、いくつかのポジティブな変化も起きています。たとえば、会議1回に費やす時間が短くなったこと。交通機関の乱れといった不確定要素もなく時間通りに始まって、時候の挨拶もよもやま話も必要なくなり、単刀直入に議題に入りやすい。そのため、想定時間よりもずっと短く、ときに10分や15分で終わる会議も増えています。

 お互いに、「せっかく足を運んでもらったのだから、1時間はしっかり会議で使わないと」という発想も皆無になりました。来社した人を15分で帰すのは、どこか気がとがめるものですが、ビデオ会議なら早く終わった分だけ、そのまま別の仕事に移行できるのでメリットしかありません。目的が果たせれば会議は短いほうがいいですよね。

 また、出席しなくてもよいと考えられる会議は欠席しやすくなった一方で、自らの勉強のために見学したい会議であれば、参加するのも容易になりました。プレゼンに定評のある社員の会議に新入社員を参加させ、研修の場としている企業もあるといいます。

 逆に、性格が引っ込み思案だったり、上長やエライ人に気兼ねしたりして、会議では発言ができなかった人が、チャットでコミュニケーションをとるようになったことで大活躍するようになった、という例も生まれています。単に「従来型の会議に向いていなかった」だけで、クリエイティブなアイデアを発想することには長(た)けていたというのです。

 これも、会議のあり方や役割、使われるツールとコミュニケーションを見直した結果、得られた財産というべきでしょう。

 私はビジネススクールのグロービス経営大学院で講師も務めていますが、グロービスの講義では、ビデオ講義での発言の回数や品質も評価の対象になります。ビデオ会議でも、積極的に「発言ボタン」を押して質問をする人がいたり、参加者が見られるチャットで話しまくる人がいたりと、さまざまです。講義のように評価システムこそなくとも、同じように、意味ある発言、価値ある発言をした人にこそ、評価が集まりやすい環境になってきたといえるでしょう。

 そうした経験を積むと、実際に音声で発言しようが、チャットで文章を打とうが、大切なのは「そのときに、何を言うか」という適時性と発言内容だとわかってきます。ビデオ会議の浸透で、「言語化力」はより重要なスキルになったといえるでしょう。

 一方で、ビデオ会議が進んだことで、気楽に呼ばれやすくなり、参加する会議が増えてしまっているという悩みも聞きました。また、一人ずつ話すという性質もあり、むしろ会議時間が延びてしまうケースもあるそうです。

 これらの課題には、いくつかの対処法が考えられます。まず、参加する人の「言語化力」にも関連しますが、今まで以上に要点が伝わりやすいように、構造化したうえで伝えるスキルが重要です。言わば、「先に結論からズバッと言っていく」ような話し方が向いています。一人ずつが話すので、だらだらとした話し方だと、相手にストレスを与えやすいのです。話し方でいえば、ビジネス系ノウハウを伝える人気YouTuberあたりは、わかりやすく参考になりそうですね。

 また、会議の目的を情報共有ではなく、「議論」か「決断」に絞ることも大切です。このいずれかであれば、権限や能力を基準に参加すべき人も選びやすくなります。参加する人すべてに意味がある会議が実現できるわけです。

 中には、自分の画面のバーチャル背景にタイマーを設定して、常に参加者へ制限時間の意識をもたせるというテクニックもあります。ビデオ会議の仕事術には、さまざまな可能性が広がっています。