コロナ以降の新しい「仕事の考え方」の指針となる書籍、『どうして僕たちは、あんな働き方をしていたんだろう?』の発売を記念し、その一部を変更して公開します。
同書の著者は、シリーズ160万部超のベストセラーと『99%の人がしていない たった1%の仕事のコツ』などの著作をもつ河野英太郎氏。電通、アクセンチュア、IBMなどをへて、現在は急成長中のスタートアップ・アイデミーで執行役員として活躍する河野氏は、何度もその働き方や仕事への価値観を変えてきました。その経験を活かし、過去の「働き方」をBefore/Afterのストーリー形式で振り返ったのち、実際にどうすれば古い働き方を変えられるかというHow Toのアドバイスをしてもらいます。
第3回は、コロナ以降の最も大きな変化ともいえる「対面コミュニケーション」がテーマです。
ストーリー編[Before]
会議は「参加すること」に意義があった
その部屋には20名近くの人々が集まって、一番奥の空いた席に座る人の到着を待っていた。役員も参加する隔週の部内会議だ。「会議」と名はついているが、基本的には各課の代表者が代わる代わる発言していくので、意見を交わすようなことも少ない。
末席にいた入社3年目の吉野淳は、この時間がたまらなく嫌いだった。議事録づくりからは自分より後輩ができたことで解放されたが、何をするでもなく、長い時で2時間近くを奪われてしまうのだ。
会議室のドアが開く。顔を見せたのが田島執行役員と、その「お付き」と裏でささやかれている川下部長だった。全員が椅子から立ち上がり、迎え入れる。こんな「右に倣え」な空気も、吉野は無表情でこなせるようにはなったが、腹落ちはしていない。
(だいたい、この執行役員様が、なんでか時間が合わなくて、会議がリスケされたりするのがいちばん腹立つんだよな……)
それぞれが席につき、会議という名の時間が始まった。発表者が資料を用いながら、自分たちのプロジェクトの概略や進捗を伝えていく。時折うなずいたり、資料を見たりするが、その受け答えの多くは川下部長が担っている。
(この内容なら、ぶっちゃけ資料読むだけでだいたいわかるんじゃないの?意味ないよなぁ。なんでわざわざ全員集まらないといけないんだろう……)
吉野が、退屈のさなかに、聞くふりをして見るでもなく見ていたノートパソコンから顔をあげると、自分より3年ばかり先輩の社員が、手で顔を隠して居眠りしていた。微動だにしないので、角度によっては考え事をしているように見えるそうだ。
(もはや謎に身についたスキルだよな、それ……)
自分もあと数年すれば、同じような過ごし方をしてしまったりするのだろうか。小心者の自分に、そんなことが可能になるのか。吉野は自分の姿を想像して、暗い気持ちになった。