――私も実際に子どもの中学受験を経験した時に感じましたが、親もその渦中にいると見えなくなることが多いですよね。冷静さが失われて別の人格が出てきたりして‥‥‥。想像以上に中学受験は子どもにとっても親にとっても過酷だと思いましたが、それでも「中学受験」をさせるメリットって何だと思われますか?

【中学受験】『二月の勝者』になるために、一番、大事なことおおた氏

おおた そうですね、一番は「親子の成長」でしょうか‥‥‥。子どもの成長は当然だけど、むしろ、親の成長の方が大きいんじゃないかと思うんです。ちゃんと向き合えば。

野田 ちゃんと向き合えば、ね。大きな気づきが得られますよね。

おおた 何でこんなにイライラするのかとか、怒ってしまうのかと考えた時に、自分の中に、もともとあったものが原因だと気づけるか。子どもの中学受験に並走していると、自分のこれまでの人生の中で、磨き損ねていた部分が出てくるんです。自分でも知らなかった囚われとか価値観とか。それに気づいて手放せた時には、親としてだけじゃなく「人」として成長できると思うんです。

野田 そうですね。受験ってスタートはどうしても「親の受験」だから親の熱量が子どもの熱量を上回るんですが、子どもたちが、「これって僕のためなんだ」「自分の受験なんだ」と気付くと、親の熱量を上回るんです。そんな子どもの姿を見て、「自分の方針通りじゃなくても子どもは成長するんだ」と気づくと、親も成長できる。合格不合格というのは、そういう意味では本当におまけみたいなものですが、そこに気づけた人って、結果もついてくることが多いんです。

おおた 気づける親と気づけない親の違いは、「何でこの子はできないの」とか「なんでやる気がないの」と思った時に、その「なんで」を自分に向けられるかどうか。なぜ自分は子どものペースを認められないのか、できてないところばかりに目を向けてしまうのか。その問題を大きく見せているのは、実は自分の中にある問題だと気づけるかですね。

子どもを変えようと思うのではなくて自分が変われる所ってどこだろうっていう視点を持てるかは大きいですね。

野田 逆に気づけない場合は、中学受験がデメリットになることもありますね。

おおた 本当にそうです。その自分の価値観の囚われに気づかないまま、子どもが合格して、うまくいってしまうと逆に危ない。そういう親の子は大人になってから大変なんじゃないかな。「受験強者のジレンマ」って僕は呼んでいますが、自分と向き合うことがないまま、合格して社会に出た子はとても苦労すると思います。

【中学受験】『二月の勝者』になるために、一番、大事なこと野田氏

野田 中学受験はゴールではなくて、スタートですからね。それは私も常々、子どもにも言っています。逆に人生って、あの時失敗だったなと思っても後から振り返るとあれが良かったと思えることも多いですしね。

おおた 僕は、親の役割は「勉強を教えること」とか「子どもの偏差値を上げること」ではなくて中学受験という機会を通して人生を教えることだと思っています。人生における「決断の仕方」だったり、「覚悟の決め方」だったり「選択の基準」だったり‥‥‥。子どもが初めて自分の力で自分の人生を切り開こうとする中学受験というタイミングで、どういう示唆を与えることができるか。それが一番の親の役目だということは、今回の本に込めた一番のメッセージです。

 もしかすると、受験の渦中にいる人にはこの言葉は届かないかもしれない(笑)。でも心の片隅にでも残っていたら、終わった後きっと、「そういうことか」とつながると思います。

野田 本当ですね。今、頑張っているすべての受験生親子が、この本を読んで、中学受験を自分の人生に役立ててほしいですね。