コロナ危機で病院や診療所の収益が悪化し賞与カットなどの憂き目を見ることはあっても、看護師は失職して食えなくなるという最悪の雇用環境に今はない。彼らが雇用環境の変化の渦に巻き込まれるのは“これから”だ。特集『病院の危機』(全6回)の#4では、看護師を取り巻く変化を追った。(ダイヤモンド編集部 野村聖子、臼井真粧美)
医療機関は看護師の確保に奔走
求人数の増加や時給アップが起こった
人材サービス大手のエン・ジャパンによれば、新型コロナウイルス感染拡大が本格化した3月の看護師・准看護師の派遣時給は、2月に比べて19.5%上昇。前年同月比でも6%高く、求人数は26%増えた。
日本看護協会は、緊急事態宣言発令の翌日4月8日に、同協会の「eナースセンター」求職登録者5万人に向けて、復職の依頼メールを一斉送信するなど、看護師の確保に追われた。
コロナ禍での看護師不足は、3月に始まった学校の一斉休校のために休職せざるを得ない看護師が続出した影響が大きかった。看護師の多くは女性である上、働き盛りの30~40代は子育て中の者が少なくない。
また副次的ではあるが、特にコロナ患者の受け入れ病院に勤務する医療従事者の子どもが、感染リスクを恐れる幼稚園・保育園などから登園を拒否されたり、家族からも離職を勧められたりするといったケースも少なからず報告されており、これらの理由による離職者も出ている。
医療現場で最も構成比の高い看護師層が抜けた穴を埋めるため、各医療機関は人員確保に奔走、これにより求人数の増加や時給アップが起こったのである。
看護師の売り手市場はアフターコロナも続くだろうというのが大方の予想だ。1101人の医師を対象とした調査では、コロナ禍前後を比較して、看護師の求人数が増えると回答したのは実に52.4%。医師自身の求人数が増えると回答したのはわずか14.1%だったにもかかわらずだ(医師紹介事業などを行う医師のとも調べ)。
フリーランス医師の50代男性は「コロナの影響で自分たち非常勤医師が勤務日数を減らされたり雇い止めをされたりしているのに対し、看護師は『ここを辞めてもいくらでも次がある』と、相変わらず強気だ」と苦笑する。
コロナ禍においても「看護師最強説」がささやかれてはいるが、実は勤務先の希望を通したり、給与などの厚遇を維持することにおいては今後、難しい局面を迎える。