何ドルで入札するのがベストか?

 相手が2ドルを入札する場合。自社が2ドルを入札したら、入札額が同じなので、勝率は50%。負けたら何ももらえないし何も払わない(つまり収益は0ドル)が、勝ったら5ドルの価値を見出していた広告スポットに2ドルしか払わなくていいので、3ドル分の収益があることになる。つまり、50%で0ドル、50%で3ドルの収益なので、平均して1.5ドルとなる。

 一方、もし自社が4ドルを入札したら、自社の方が入札額が高いので、確実に勝てる。この場合、5ドルの価値を見出していた広告スポットに2ドルしか払わなくていいので(支払額は相手の入札額だということを思い出そう)、これまた3ドル分の収益があることになる。つまり、収益は3ドルとなる。

 ここで分かることは、もし相手が2ドルを入札すると分かっているなら、自社が2ドルを入札すれば1.5ドルの収益、4ドルを入札すれば3ドルの収益なので、4ドルを入札した方が2ドルを入札するよりもいい、ということだ。

 それでは次に、相手が4ドルを入札しているとしよう。

 この場合、もし自社が2ドルを入札したら、自社の方が入札額が低いので、確実に負ける。つまり、何ももらえないし何も払わないので、収益は0ドルとなる。

 一方、もし自社も4ドルを入札したら、入札額が同じなので、勝率は50%。負けたら何ももらえないし何も払わない(収益は0ドル)が、勝ったら5ドルの価値を見出していた広告スポットに4ドルしか払わなくていいので、1ドル分の収益があることになる。つまり、50%で0ドル、50%で1ドルの収益なので、平均して0.5ドルとなる。

 よって、もし相手が4ドルを入札すると分かっているならば、自社が2ドルを入札すれば0ドルの収益、4ドルを入札すれば0.5ドルの収益である。だからやはり4ドルを入札した方が2ドルを入札するよりもいい、となる。

 つまり、だ。相手が2ドルを入札すると分かっているとしても、相手が4ドルを入札すると分かっているとしても、どちらにしろ自社としては4ドルを入札した方がいい。言い換えると、相手がどんな入札をするかは分からないが、どんな入札をしてきたとしても、自社としては4ドルを入札するのがベストなのだ。

グーグルが広告で儲けるしくみと「囚人のジレンマ」の意外な関係

 だから、自社としては4ドルを入札すべきだ。そして、他社の立場に立ってみても、同じことを考えるだろう。だから他社も、4ドルを入札するだろう。

 というわけで、両社とも4ドルを入札する。そして、半々の確率で勝ち、勝った場合の収益は(5ドルの価値のものに4ドルを払うことになるので)1ドル。だから(負けて0ドルの収益となる場合も加味した)収益の平均値は0.5ドルだ。ちなみにこの「2社とも4ドルを入札する」ことをこのオークションの「ナッシュ均衡」である、と言う。

 しかし、(そうするのは違法だが)もし両社で話し合って両社とも2ドルを入札していれば、(先ほど分析した通り、)収益の期待値は1.5ドルだったはずだ。このことから、このオークションにおいては、各社が自社の収益のみを考えて入札額を決めた結果、両者とも損してしまっている(収益が、1.5ドルから0.5ドルに落ちている)、ということが分かる。これが「ジレンマ」たる所以である。

 さて、「囚人のジレンマ」の「ジレンマ」のほうは説明したが、どこが「囚人」なのかはまだ説明していない。これはべつに両社が違法な話し合いをして逮捕されて囚人になる、ということではなく、全く別の理由だ。本稿で紹介した例ではグーグルに広告を出したい企業2社が主人公だったが、元祖「囚人のジレンマ」では、警察に捕まった2人の囚人が主人公なのだ。

 さらに詳しく知りたい読者は、ぜひ「囚人のジレンマ」をグーグル検索して、調べてみてほしい。