仕事に効くコミュニケーション力を鍛える方法

――小野さんのような「フラットなコミュニケーション力」を身につけるためには、何をしたらいいですか?

小野 訓練という意味ではディベートはすごくおすすめです。僕は大学のとき弁論部の部長で、ディベートの大会で優勝しまくっていたんです。

 競技のディベートなので、自分の主義主張とは関係なく、コイントスで決まった主張をしなければなりません。当時は「3・11」より前の時代だったのですが、たとえば「日本政府は原子力発電所の新規着工を凍結すべし」というお題が出て、それを「賛成・反対」に分かれてディベートするんです。

 この体験ってすごくおもしろくて、「凍結賛成」ってなったら「凍結すべき理由は5つあります。まずは……」みたいな話を怒涛のごとくするんです。でも、ひとたび「凍結反対」になったら、今度は一転してまったく逆の主張をまくし立てます。

 こうしたディベートの体験を通じて、あるテーマについて「絶対賛成」と言っていた人が、反対側の意見やその根拠を徹底的に調査していくと、意見が変わることがあります。つまり、」反対側の意見のことをあまり知らずに、それなりに強い主張を持っていた」ということです。

 相反する2つの意見の双方を徹底的に理解しようとすることは、ある種、二重人格的だと言えるかもしれません。そういうことをやっていると「中庸の大切さ」「バランスの重要性」が身にしみてわかってくるんです。

 今のビジネス環境も、じつはこういう部分は多いですよ。

 仕事のやり方やシステム、価値観など、さまざまなところで変化が求められていますが、「従来のやりが方いい」という人と「新しく変えなきゃダメだ」という人が、お互い自分の側だけの意見をぶつけ合っていても前には進まない。

 そのときに必要なのは、全力で相手の立場になって考えてみることです。でも、自分と反対の意見について、徹底的に相手の立場に立って全力で考えたことがある人ってどれくらいいるでしょうか?

 それでいて「あいつはわかってない」「あの人は無能だ」と、お互いがやっているわけです。

「共感力はいらない」仕事に効く“フラットなコミュニケーション力”の鍛え方

――「相手の立場に立って、全力で考えたことがない」というのは、とても重いメッセージですね。

小野 だから、どんなに自分と意見が違う人がいても、安易には否定しない。まずは、その人の立場に立って全力で考えてみる。

 いまでは笑い話ですけど、以前僕は、競合相手が自社商品の長所を説明した後に「ちょっと補足させてもらってもいいですか」って、相手商品のいいところを追加説明させてもらったことすらあります。

 相手にしてみたら「敵が味方し始めた!」ってワケわからなかったと思いますけど(笑)

 僕はどんな場面でも、「自分の主張のメリット・デメリット」「相手の主張のメリット・デメリット」を本気で考えることが習慣になっているんですね。

 一方が絶対正しいなんてことはありません。一度は相手の立場に立って、本気で考えてみることが必要だと思います。そういう訓練として、ディベートは本当にうってつけなんです。

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