『SHIFT イノベーションの作法』発売1周年を記念して、著者であるビジネスデザイナーの濱口秀司さんに「プレゼンの極意」を聞くセミナーを開催しました。USBメモリやマイナスイオンドライヤーなど数々のイノベーションを実現してきた濱口さんは、新しいアイデアを実現する過程で、それに反対だったり懐疑的だったりする社内の人たちをどのように納得・共感させているのか?『SHIFT イノベーションの作法』中でも、「不確実性の中で意思決定を下すには インターナルマーケティングのアプローチ」章内で語られた「合意を取り付けるプレゼンテーション手法」についてさらに深掘りして聞きました。(編集協力:岡田菜子)

絶対成功するプレゼンに不可欠な3ステップ

プレゼンは「言いたいことがピカピカでなければいけない」と思う必要はありません。

「相手に理解して欲しい」「こう動いて欲しい」ということさえあれば、それだけでプレゼンは成立します。これがまず大前提です。

その上で必要な要素が、この図にある3つのステップですね(下図)。

濱口秀司さんに聞く100%成功するプレゼン(1)「美しいプレゼンテーションは、最初の3分でわかる」成功する社内プレゼン3つの要素(『SHIFT イノベーションの作法』第6回「不確実性の中で意思決定を下すには インターナルマーケティングのアプローチ」より)
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第一に、パッションがないといけません。相手に伝えたいことがきちんとあれば、「それを伝えたい!」というパッションが生まれます。プレゼンというのは相手が人間なので、必ず体温が伝わります。相手に「こいつはやる気がないな」と思われたら、プレゼンは成立しません。会社の中では、話す本人に熱量がなかったり、業務上で仕方なくプレゼンしてるというケースも見られますが、それだとうまくいかないです。もっと言えば、パッションやアイデアがないのにプレゼンをしても、人生の時間の無駄です。

意思決定者に話すとき頭に入れておくべきこと

第二に、三角形のピラミッド状で話すことです。

基本的にプレゼンの相手は、企業組織の中だと3種類あると思います。

・「目上の意思決定者を動かす」場合
・「同僚を巻き込む」場合
・「立場上自分より下の人に、やってくださいとお願いをする」場合

濱口秀司さんに聞く100%成功するプレゼン(1)「美しいプレゼンテーションは、最初の3分でわかる」濱口秀司(はまぐち・ひでし)
京都大学工学部卒業後、松下電工(現パナソニック)に入社。R&Dおよび研究企画に従事後、全社戦略投資案件の意思決定分析を担当。1993年、日本初企業内イントラネットを高須賀宣氏(サイボウズ創業者)とともに考案・構築。1998年から米国のデザイン会社、Zibaに参画。1999年、世界初のUSBフラッシュメモリのコンセプトをつくり、その後数々のイノベーションをリード。パナソニック電工米国研究所上席副社長、米国ソフトウェアベンチャーCOOを経て、2009年に戦略ディレクターとしてZibaに再び参画。現在はZibaのエグゼクティブフェローを務めながら自身の実験会社「monogoto」を立ち上げ、ビジネスデザイン分野にフォーカスした活動を行っている。B2CからB2Bの幅広い商品・サービスの企画、製品開発、R&D戦略、価格戦略を含むマーケティング、工場の生産性向上、財務面も含めた事業・経営戦略に及ぶまで包括的な事業活動のコンサルティングを手掛ける。ドイツRedDotデザイン賞審査員。米国ポートランドとロサンゼルス在住。

それぞれに難しさはありますが、基本的に技法は一緒です。

ただ、中でも皆さんが一番気にされるのが、経営者などの意思決定者、上の人に話すことですよね。意思決定者へのプレゼンがきちんとできれば、その技法は、自分の仲間やチームメンバーなどにも同じように使えます。なので、今日は特に、意思決定者へのプレゼンについて考えていきたいと思います。

いくつか、意思決定者の特徴を考えてみましょう。

まず、経営者は「忙しい」ために、基本的に短気です。毎日やることも決めることもたくさんあって忙しいので、「早く結論を言ってくれ!」と思っていることがほとんどです。次に、経営者は具体論が好きです。何をやったらいいのか、アイデアは何かなど、具体的な話をしましょう。ややこしかったり抽象的なことを離しても、「so what=結局具体的に何をしたらいいの?何を決めたらいいの?」というところに目がいってしまう。そして最後に、経営者は本質論が好きです。具体的でも枝葉末節だと「何を言ってるんだ?」となってしまいます。

つまり覚えておくべきは、「経営者はできるだけ早く・具体的で・本質的なものを知りたくてしょうがない」ということです。優しい経営者であれば、内心(早く具体的に言ってくれ!)とイラついていても、聞いてくれることもあるでしょう。ただし、表に出すかどうかは別として、頭の中では「早く答えを言えよ」と思っている。

ですので、意思決定者へのプレゼンテーションでは早めに答えを言うほうがいいです。

あなたのプレゼンは三角形か?台形か?

この「ピラミッド」のセオリーが分かっていたとしても、実際には99.9%のプレゼンはそうなっていません。あれこれ前提条件が書いてあって、最後のほうにやっと答えがやってくることが多い。

本当に美しくて正しいプレゼンテーションはピラミッド型の三角形になっていて、まず三角形の頂点に「結論」が存在します。一番上に「結論はこうである」があり、次の階層にその理由が3つくらいあり、それらの下にさらにその理由がある……といった具合にどんどん情報が増えていきます。結論はピラミッドの頂上にあって、その下は諸々の論理的な階層構造となっている。こういう風に仕立てた上で、それを上から喋っていくことがすごく大事です。

いいプレゼンかどうかは、最初の3分くらいで分かります。

「結論はこうである」が前半に入っているのがいいプレゼンです。もう少し言うと、「(相手に)何をして欲しいのか」も前半に話したほうがいいですね。この情報を聞いて意思決定してほしい、「Go」か「No Go」か答えてほしい、といった要望です。「このアイデアがOKなら、あと3ヵ月揉んでいいですか」、あるいは「アイデアが駄目なら、その理由と次にどうすべきかヒントください」とか。何をして欲しいのか、結論が何か、を前半に固めていく必要があります。

このように、結論から入って詳細条件にいくのが美しいプレゼンですが、多くのプレゼンは三角形の土台のほうから入って、「市場環境は……」「技術は……」など細かい前提条件を積み重ねてから、最後に「こういうアイデアがあるんです」と結論づける、という流れになってしまっています。

もっと言えば、僕が見るプレゼンのほとんどは三角形にすらなっていなくて、台形になっています。下からいっぱい情報は積み上げられているけれど、肝心の頂点にあるべき結論が抜けてしまっている。あるいは、本人は結論だと思っている点を、聞いている側にそれを結論と受け取られていない。仮に前提条件のうえに慌てて結論を打ち立てても、台形の上に棒を立てて林檎を刺すようなものです。さらに布切れ被せてピラミッドに見せかけても、経営者から見ると「その布はなんだ!」と見透かされてしまいます。

何でそんなことが起きるのかな?と、昔考えたことがあるんです。

実際のピラミッドを思い浮かべると、下から積み上げていきますよね。何故なら、重力があるからです。重力のない宇宙空間ならピラミッドも上から造れるかもしれませんが、地球上であれば下から積み上げて最後に頂上に到達できます。

でも考えてみれば、僕らのプレゼンには重力がないはずです。頂上=結論から言っても何もおかしくないはずなのに、なぜかみんな下から積み上げようとする。だとすると、プレゼン界には重力が存在しているんだと思います。たとえば、いきなり頂上で単純な結論を作って「こいつバカじゃないの」と思われたくない、「複雑なものが賢くみえる」といった重力がある。もしくは「明確に言うにはさまざまな条件があるし、情報を固めてから結論づけたいな」と思う重力があったり。そうなると、ほとんどのプレゼンが台形になって、うまくいっても最後の最後に結論について話すような長細い三角形になります。

うまいプレゼンをしたければ、できるだけ早く結論言ったほうがいい。なぜなら、先ほどお伝えしたとおり、経営者は聞きながら「結論はなんだ?」と短気に思っている。最初に「今日の結論はこの1つです」と言ってもらったほうが、そのつもりで聞いていけるので、聞く側も楽なのです。(第2回へつづく)