必勝プレゼンの3ステップのうち、(1)「情熱を持つ」(2)「ピラミッド型で話す」に続き、(3)「階段状で話す」コツとは? これをマスターすれば、プレゼンを進めるうちに相手と「合意する習慣」がつきます(〈1〉〈2〉は前回記事参照)。
本記事は、『SHIFT イノベーションの作法』発売1周年記念として、著者でありビジネスデザイナーの濱口秀司さんに「プレゼンの極意」を聞くセミナー内容のダイジェストです。USBメモリやマイナスイオンドライヤーなど数々のイノベーションを実現してきた濱口さんは、新しいアイデアを実現する過程で、それに反対だったり懐疑的だったりする社内の人たちをどのように納得・共感させているのか?『SHIFT イノベーションの作法』中でも「不確実性の中で意思決定を下すには インターナルマーケティングのアプローチ」内で語られた「合意を取り付けるプレゼンテーション手法」についてさらに深掘りして聞きました。(編集協力:岡田菜子)

プレゼン中で相手と合意する「クセ」をつける

第三のポイントは「階段状で話す」ことです。プレゼンテーションの基本は、ハンドシェイク、相手との対話です。

濱口秀司さんに聞く100%成功するプレゼン(2)「プレゼンの中で相手との<合意>を習慣づければ失敗しない」濱口秀司(はまぐち・ひでし)
京都大学工学部卒業後、松下電工(現パナソニック)に入社。R&Dおよび研究企画に従事後、全社戦略投資案件の意思決定分析を担当。1993年、日本初企業内イントラネットを高須賀宣氏(サイボウズ創業者)とともに考案・構築。1998年から米国のデザイン会社、Zibaに参画。1999年、世界初のUSBフラッシュメモリのコンセプトをつくり、その後数々のイノベーションをリード。パナソニック電工米国研究所上席副社長、米国ソフトウェアベンチャーCOOを経て、2009年に戦略ディレクターとしてZibaに再び参画。現在はZibaのエグゼクティブフェローを務めながら自身の実験会社「monogoto」を立ち上げ、ビジネスデザイン分野にフォーカスした活動を行っている。B2CからB2Bの幅広い商品・サービスの企画、製品開発、R&D戦略、価格戦略を含むマーケティング、工場の生産性向上、財務面も含めた事業・経営戦略に及ぶまで包括的な事業活動のコンサルティングを手掛ける。ドイツRedDotデザイン賞審査員。米国ポートランドとロサンゼルス在住。

想像してみてください。例えばプレゼン資料の1枚目にいきなり「御社の来年の売上は250億円です」とあったら、なんで?不確実性あるでしょ? どこの数字??と、相手のアタマの中のCPU(演算処理装置)が50%くらいクエスチョンマークで占められてしまう。さらに次のスライドのダイアグラムが分かりづらかったり、米粒に書かれたお経のように細かい文字だったりするとまず読めないので、「何なんだこれ?!」となってしまう。こうなると、非常に危険です。

情報がありすぎて読めないプレゼン資料では、相手に「このページを全部理解できなかった」という感覚が残ります。明示的には思っていなかったとしても、体感的に「読めなかった」と。そして次のページで、また読めない……そうなると「この資料は全部読まなくていい。自分の気になるところだけつまみ食いしておいて、喋るだけ喋らせたら自分は言いたいこと言おう」といった気持ちになっていきます。それも最初の3分程度で決まってしまう。

では「階段状」はどう作っていけばいいか。

絶対に疑問を挟まない話題からスタートするのがいいです。例えば最初のページにいっぱい文字が書いてあったりすると、それだけで相手と「ハンドシェイク=合意」できなくなります。確実に分かる文言でプロジェクト名を書いて、それが1行であったとしてもきちんと口頭で説明する。それがハンドシェイクです。

極端に言えば「今日はプロジェクトを開始して35日目です」という1枚があってもいいです。なぜかというと、相手が反対できないから。「今日は晴れです」と同じですね。絶対反対できないところから、相手との「合意」の階段を作っていきます。階段ですから、急には登れません。必ず底辺があって、そこからスタートする。底辺は何を示しているかでいうと、ハンドシェイクによる合意プロセスの入り口です。これが極めて重要で、絶対に「そうだね」と頷けるところからスタートする。合意は習慣なので、プレゼンの最初は合意できるようなことをいくつか並べておいて、地ならししていくのがコツです。

1段登る瞬間がいちばん危険

僕は、プレゼンテーションの最初の数枚について、特にものすごく慎重に作ります。タイトルの文言も練りますし、周りからも「なんで2ページ目に、こんな当たり前のことを書くんですか」と笑われるんですけれど、これがハンドシェイキング・プロセスなんです。でも、そのままずっといくと階段を上れず、ユニークな答えには結びつかないので、そのあとに「これが1つ言いたいことです」という新しい情報や結論めいたものが出てきます。

こういう階段を1段登る瞬間は、ハンドシェイクが終わる瞬間でもあるので危険です。言いたいことに対して3つくらい理由を用意しておいて、こういう理由があるのでここは合意してくださいと、階段を登った瞬間に優しくサポートします。3つくらい理由を並べると、相手も「なるほどね、そこは理解したよ」となります。相手に疑問が残ったまま新しい情報を重ねる相手が登れなくなるので、1段登らせたらまたフラットな部分をしばらく進んでから、次の1段とその理由も用意しておきます。こんな風に「ハンドシェイク(flat)」を作ってしばらく走り、「階段(bump)」のところで理由を用意して、また走る……というのを3段、4段と組み上げていくと、階段状になっていくわけです。

3段、4段と組み上げれば合意の習慣が出来上がっているので、次に新しい情報や提案が来ても、相手もきちんと理由を聞けるのだろうと安心でき、「この人の話は分かりやすい」という印象を与えられます。僕の感覚では5段くらいまで慎重に階段を組んでおけば、あとはある程度は適当でも大丈夫です。前半がきちんとしていれば相手も「この人の話を聞こう」という気持ちになっていますし、最初のほうで結論や伝えたいことも言い終わっていますので。

想定外の質問に答える2つの方法

この階段プロセスは最強で、絶対失敗しないプレゼンのやり方ですが、失敗するとしたらどこか分かりますか。

「階段を登る瞬間」です。そこも理由を用意してあるので普通は大丈夫なのですが、ありえるのは3つ理由を述べたときに「ちょっと待てよ、その3つじゃ俺は納得しないぞ」と言われてしまう場合。何か突っ込まれたときにどうするかについても、いくつか手法があるので、ぜひ覚えておいていただければと思います。

まずはとにかく、0.5秒で答えを考えることです。質問や突っ込みに対して、短い時間で必死に考える。そして、2つアウトカムがあります。

1つは答えを思いつく場合。その場合は、すぐに答えを言えばいいだけです。

しかし大概は、答えを思いつかなかったりします。その時は「なかなか鋭い質問ですね」と褒めることです。続けて「正直に言っていいですか、その点は考えていなかったです」、そして「すみません。プレゼンを最後までやりたいと思うので、今おっしゃっていただいたことはメモして置いておきます。あとで答えますので、今はこのポイントはクリアしたと思って聞いてください」と言います。この順番で言えば、通常の人間関係ならみんなぐっと我慢するので、最後までプレゼンが止まることはありません。

面白いのは、もし、その後のプレゼンでピラミッドと階段状のルールがきちんと守られていれば、おそらく最後までものすごくうまくいくはずです。そして、90%くらいの確率で間に挟まれた質問を忘れています。

それで終わってもいいのですが、プレゼン中に答えが思いつく瞬間もあるでしょう。聞いた相手も「もういいよ、OK」という心情になっていることが多いですが、そこでさっと「前半に出た質問なのですが、答えを思いつきました」と言えれば、さらに良いプレゼンになります。もしくは、答えを思いつかない場合でも「いただいた質問に対しては、1週間後に考えて持ってきます」と回答すれば、「なかなかいい奴だな」という印象で終われます。

ピラミッドと階段の両ルールは矛盾しないか?

ここで1つ矛盾があると思われやすいのは「結論は必ずプレゼン全体の前半に持ってくるピラミッドルール」と、「話法の階段ルール」です。全体のプレゼンテーションが100枚だとしたら、ピラミッドルールにのっとって、結論は前半の10枚以内に必ず提示します。真ん中の50枚目くらいに結論が出るとかはありえないし、前半10%でも遅いかなくらいの感覚です。

同時に、階段ルールでいえば、最初に結論をバーンと出すと相手が「なんだそれ」となって納得してもらえません。最初にハンドシェイクしたうえで新しい情報や提案と理由を述べながら1段ずつ階段を上がっていき、3段目くらいに「結論はこうである」と言わないといけない。

つまり、論理構成の点では、プレゼンの前半に結論を持ってこないといけないという「ピラミッドルール」と、話法という点では、ハンドシェイクと新しい情報・提案をセットにする「階段ルール」とがあって、両方を守らなければならない、ということです。プレゼンの妙義は、その2つについて大原則にのっとりながらバランスをどうとるかで、聞き手の特徴や状況によってチューニングする必要があります。それが、プレゼンをやる面白さで、設計の一番重要なところです。同じプレゼンは二度とないんです。相手も違うし、状況も違う。ルールは持ちながら、一品一様になります。(第3回へつづく)