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これからビジネスパーソンに求められる能力として、注目を集めている「知覚」──。その力を高めるための科学的な理論と具体的なトレーニング方法を解説した「画期的な一冊」が刊行された。メトロポリタン美術館、ボストン美術館で活躍し、イェール・ハーバード大で学んだ神田房枝氏による最新刊『知覚力を磨く──絵画を観察するように世界を見る技法』だ。発売から1週間を待たずして大増刷が決定するなど大きな反響を呼んでいる同書から、一部を抜粋・編集して紹介する。

知覚の「根拠」を問う

 前回は「知覚力を高める4つの方法」のうち、前半の2つについてお伝えしました。今回はその続きです。

 知覚のベースとなる知識は、すべて正しいとは限りません。だからこそ、ぜひ意識していただきたいのは、「なぜ自分はそのような意味づけをしたのか?」と自問してみることです。

 その知覚を生み出した根拠を検証しはじめると、次々と新たな問いが湧いてきます。そうした問いに答えるためには、自分のなかに眠っている知識を改めて呼び起こし、それについて突き詰めて考えることが必要になります。そうして勢ぞろいした知識が、より広い知覚を可能にしてくれるわけです。

 「なぜ自分はそう解釈したのか?」
 「どこでその事実を知ったのか?」
 「なぜそれが正しい事実だと言えるのか?」
 「もしもその事実が正しくないとすれば、自分の解釈はどう変わるのか?」

 要するに、哲学者ソクラテス(紀元前470/469~399)がやっていた問答法をあえて自分自身にやってみるわけです。

 とは言っても、これは決して突飛な試みではありません。ソクラテス式問答法そのものは、現在もなお大学やロースクールの授業、法廷、心理療法などでも活用されている一般的なメソッドです。

 「(創造性を育むために)私なら、自分の持つすべてのテクノロジーを、ソクラテスと一緒に午後を過ごすことと交換するだろうね」

 これは、数多あるスティーブ・ジョブズの名言のなかで、私がとくに気に入っているものの1つです。ジョブズは、ある解釈を支えている「根拠」を徹底的に掘り下げていくソクラテスの問答法が、いかに高い創造性につながるかを熟知していたのでしょう。「携帯電話には物理的なボタンが必要」という知覚を支えている根拠を見直すことがなければ、iPhoneというイノベーションは決して誕生しなかったわけですから。

見る/観る方法を変える

 知覚を磨くための方策を3つご紹介してきましたが、じつのところ、これらには共通点があります。これらは「脳」に働きかけることで、間接的に知覚を変えようとする試みだということです。

 他方、知覚には「脳」が関わる解釈のステップのほかに、「感覚器」による情報受容のステップがあります。4つめの方策は、この感覚器にアプローチするものであるという意味で、ほかの3つとは大きく異なります。そして実際、これこそが知覚力を磨くための最もパワフルな方策だと言えます。

 「感覚器」による情報受容と言ってもさまざまありますが、人間が五感を通じて得る情報のうち、約83%は「視覚」由来のものです。知覚への最大の影響力を持っているのは、やはりなんと言っても視覚なのです。

 なお、ほかの感覚については、聴覚11%、嗅覚3・5%、触覚1・5%、味覚1%と言われています。

 したがって、知覚の質を高めたければ、まず自分の眼が「何を/いかに見るのか」をコントロールしていくのが、最も効率的だということになります。目覚めている限り、人間の眼には膨大な視覚刺激が飛び込んできます。そこからどんな情報を、どんなふうに受容するか──それを変えていけば、当然、世界の意味づけもいままでとは明らかに違ってくるでしょう。

 しかし、「何を/いかに見るのか」をどう変えればいいのでしょうか?

 この点について、鮮やかな手がかりを示してくれているのが、レオナルド・ダ・ヴィンチです。そこで次回からは、ダ・ヴィンチの偉業を陰で支えていた「何を/いかに見るのか」を掘り下げていくことにしましょう。