“やりたいこと”と“できること”
今回は掲示板大賞の常連である広島市の超覺寺の投稿です。テレビ東京系『あちこちオードリー』の番組内で若林正恭さんがこんなことをおっしゃっていました。
セカンドの7番っていう役割が世の中にはあって、そいつはセカンドで守備がめちゃくちゃうまいんです。でも、守備がうまいって褒める人がいない。ただ、エラーしたらめちゃたたかれる。俺はね、その役回りをね、やっぱりコンプレックスだし、コンプレックスだったけど、もう腹くくってる。セカンド7番で死んでいく。これがね、スターの素振りしちゃうと痛いことになる。
オードリーの若林さんは現在も数多くのレギュラー番組を抱える売れっ子ですが、この発言を聞く限り、今までかなりコンプレックスを感じていたようです。若林さんはいつも堅実に仕事をこなし、番組を成立させていきます。このような人がいなければ番組が成り立たないのは確かですが、周囲の称賛がどうしても4番打者のような存在の人に向かうため、そのような人に対して憧れや嫉妬の感情が生じていたのでしょう。
人間は誰しも承認欲求を持っています。その承認欲求が根源となり、華やかな存在の人と自分の存在を比較することによって、人は不幸になってしまうのです。しかし、比較という行為はしょせん脳の中で生じている妄想にすぎません。若林さんは4番と自分を比較すること自体が無意味であることに気づかれたのでしょう。「自分ができることにしっかり徹しよう」という覚悟が、この「セカンド7番で死んでいく」という言葉に表れています。
自分が4番をやりたいと思い、実際にその4番の役割をしっかりこなす素質や能力を備えていれば完璧ですが、現実の世界ではなかなかそうはうまくいきません。社会の中で働いていると気づきますが、自分のやりたいことと自分にできることの乖離(かいり)がどうしても生じてしまいます。
以前、予備校講師でタレントの林修先生がTBS系『林先生が驚く初耳学!』の番組内で、「自分が就いている予備校講師という職業を楽しいと思ったことは一度もないし、この仕事をやりたいと思ったことはないが、自分はこれが他の人よりもできるからやっている」とおっしゃっていました。
そして、「自分にできることは“必然”だけれど、自分のやりたいことはその時の環境やさまざまな情報によって左右される“偶然”にすぎない。だから、自分のやりたいことというものをあまり信用せず、自分ができることに徹している」と続けていました。
人生を振り返ってみると、自分のやりたいことはコロコロ変わっていませんか。小さい頃にやりたいと思っていたことを今でもしっかり覚えている人はあまりいないのではないでしょうか?
子どもの頃は、たいてい親の意向や影響を強く受けて、やりたいことが決まるものですが、それは環境が変われば、すぐに変わってしまうものです。お釈迦さまは『法句経』の中で、こうおっしゃいました。
(じぶんではない)他人の目的のために自分のつとめをすて去ってはならぬ。自分の目的を熟知して、自分のつとめに専念せよ。
(中村元訳『ブッダの真理のことば 感興のことば』岩波文庫)
自分のつとめに専念するためには、まず自分にできることをしっかり見極めることが重要です。それは社会の中でさまざまなことに実際にチャレンジしながら、発見することでもあります。
もちろん、自分のやりたいこととできることが重なれば一番幸せですが、そうならない場合は無駄に他者と比較して自らを卑下せず、自分にできることにしっかり集中する意識を持つことが大切かもしれません。
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