コロナ禍では、お金を増やすより、守る意識のほうが大切です。
相続税は、1人につき1回しか発生しない税金ですが、その額は極めて大きく、無視できません。家族間のトラブルも年々増えており、相続争いの8割近くが遺産5000万円以下の「普通の家庭」で起きています。
本連載は、相続にまつわる法律や税金の基礎知識から、相続争いの裁判例や税務調査の勘所を学ぶものです。著者は、日本一の相続専門YouTuber税理士の橘慶太氏。チャンネル登録者数は4.8万人を超え、「相続」カテゴリーでは、日本一を誇ります。また、税理士法人の代表でもあり、相続の相談実績は5000人を超えます。初の単著『ぶっちゃけ相続 日本一の相続専門YouTuber税理士がお金のソン・トクをとことん教えます!』も出版し(12月2日刊行)、遺言書、相続税、不動産、税務調査、各種手続きという観点から、相続のリアルをあますところなく伝えています。

5人に1人が狙われる税務調査、「マークされる家庭」の特徴とは?Photo: Adobe Stock

5人に1人が狙われる税務調査のリアル

 私はこれまで30~40件ほど、相続税申告の税務調査に立ち会ってきました。その経験から、「税務調査は世の中の人が考えている以上に厳しい」と断言できます。

 調査官の口調や態度が横柄という意味ではありません。調査官の調査能力が私たちの予想をはるかに上回る精度であるという意味です。

 例年、相続税の税務調査は約1万2000件、税務調査ほど厳しくない「簡易な接触」が約1万件。合計約2万2000件の調査が行われています。年間の相続税申告は約10万件なので、4~5件に1件の割合で調査が行われていることになります。

 そして税務調査に選ばれてしまうと、なんと85.7%の人が追徴課税になっています(2018年実績)。税務署は申告期限から5年間、税務調査を行う権限があります。ただ、実務上は、申告書を提出した1年後の夏(7月中頃)か2年後の夏に調査が行われるのが一般的です。

 税務調査で間違いを指摘され追徴課税になれば、罰金的な税金もかかります。納めた税金が少なかった場合は過少申告加算税(515%)。そもそも申告すらしていなかった場合は無申告加算税(1020%)。仮装隠蔽(かそういんぺい)により税金を故意に逃れようとした場合は重加算税(3540%)と重いペナルティが科せられます。

 さらに、申告期限(相続発生から10ヵ月)から追徴税を納めるまでの利息(年2.6%※2020年時点)まで加算されます。

 ちなみに2018年度の税務調査の統計によれば、追徴課税となった人のうち、16.5%の人に重加算税が課されています。健全な節税は推奨しますが、財産を隠す行為や、実態と異なる形を装って特例を使う行為は、節税ではなく脱税です。最悪の場合、刑事罰の対象になることもありますので絶対にやめましょう。

 約45件に1件と聞いて、皆さんはどう感じますか。私は非常に大きな割合だと感じます。所得税や法人税等の他の税金であれば、税務調査に選ばれる確率はせいぜい1~2%です。所得税や法人税は毎年納める税金で、かつ、母集団が相続税よりも圧倒的に大きいので、税務調査に選ばれる確率も相対的に低くなります。

 一方で相続税は亡くなった方ひとりにつき、生涯で一度きり発生する税金です。税務署も「ここで逃してなるものか!」という姿勢で、怪しい人に対しては躊躇なく税務調査を行います。