相手の言葉をしっかり聞くアクティブ・リスニング
4つの基本と9つのポイント

重松先生は著書で次のように語ります。
「アメリカの主流文化は、学生たちに聴くよりも話すことの価値を教えてきました。そうした態度を身につけ、評価されることで、それは習慣化しています。けれど私は彼らに、発言の衝動を手放し、心を落ち着かせろと言い聞かせます。(中略)彼らには、『何も話さなくていい』『発言がなくてもマイナス評価はしない。むしろ傾聴を評価する』、そう伝えています。

授業やワークショップのはじめにマインドフルネスの実践を取り入れることで、参加者は沈黙と傾聴を尊重できるようになります」

コミュニケーションにおいては、自分の意見を言う、自己主張をする能力に重きが置かれがちですが、信頼関係を築き、お互いのためにより良い関係性をつくるには、相手の言葉に耳を傾けることが重要です。

拙著『スタンフォード式生き抜く力』で取り上げた新渡戸稲造の『武士道』の真髄『葉隠』にも、武士道が聴き手の積極的な態度を重んじたという記述があります。

心理学者カール・ロジャーズは人に寄り添う手法として「積極的傾聴(アクティブ・リスニング)」を紹介。話し手に興味を持ち、心の内側に入り込み、相手の人の視点で伝えたいことをつかみ、共感する重要性を説きます。

スタンフォード式生き抜く力』では、アクティブ・リスニングの基本を4つ紹介しています。

1.パラフレーズ:相手の話したいことを言い換え、確認する
2.クエスチョン:相手の言うことを確認しながら詳しく聞く
3.エンパシー:相手の気持ちに共感を示す
4.フォーカス:相手の話に集中していることを示す

重松先生はこれについて、著書でより具体的なポイントを9つ紹介しています。

1.ストーリーを聴く:話し手の言葉に注目するとともに、その話し方にも気づきを向ける
2.すべての感覚を使って聴く:ボディランゲージで表されるような、相手の言葉以外で表される思いに気づきを向ける
3.ハートで聴く:相手の感情とともに、あなた自身の感情に注意を払う
4.しっかり聴いていることを相手に伝える:相手にあなたが聴いていることを、言葉や言葉以外の表現で知ってもらう
5.何を聴いたか、どう感じたかを投げ返す:相手が自分の感情を確認できるように、あなたが聴いたことを伝える
6.話の先を促す:確認するため、さらに詳しく知るために質問し、あなたの興味を示す
7.決めつけない:判断や批判を脇に置いて、安心できる雰囲気をつくり出す
8.好奇心はほどほどに:好奇心や疑問のコントロールに努める。行き過ぎると相手のストーリーが阻まれてしまう
9.あなたが感じていることを伝える:相手の中のポジティブで希望に満ちたサインを見逃さないように努め、相手にそれを伝える

この中に、あなたが意識していることはありますか?

深く話を聞くことを意識的に実践して初めて、「人の話を聴くのは面白い」と気づく方も多くいます。

医療現場で「ナラティブ・メディスン」を用いることは、科学的な治療に加え、苦しみに寄り添い、傷を癒す助けになります。

「ナラティブ・メディスン」は健康のための傾聴ですが、どんな間柄でも、対話を通じて分かり合い、共感することが良い関係性をつくる第一歩になることは間違いないでしょう。

一所懸命話しても、聞いてもらえなかった時のさみしさは誰もがきっと経験があるでしょう。

相手の話を、敬意を持って聞き、苦悩を感じ、共感と思いやりを示せば、相互信頼が生まれ、大きな癒しとなるのです。