米国、中国、インド、欧州、東南アジア、そして日本――世界を代表する50社超の新興企業と、その革新を支える「技術」「ビジネスモデル」を網羅した決定版として話題の、『スタートアップとテクノロジーの世界地図』。
今回は同書より、GAFAと並び称されるまでになったNetflix(ネットフリックス)の最新状況を紹介する。
GAFAと並ぶ巨大IT企業へ
Google、Apple、Facebook、Amazon。アメリカの4つの巨大IT企業群を指して、GAFA(ガーファ)と呼ぶ。その一角に食い込もうとしているのが「N」、Netflix(ネットフリックス)だ。最近では4大企業に加えてFAANG(ファング)と呼ばれることも多くなった。
Netflixは定額制の動画配信サービスを手がけている。アメリカでは従来、ケーブルTV放送の配信が有料でおこなわれていた。しかし、ケーブルTVの加入者はここ数年で右肩下がりとなっている。代わりに台頭してきたのがNetflixだ。全世界での有料会員数は2億人に迫る勢いとなっている。
Netflixは1997年、リード・ヘイスティングスとマーク・ランドルフによって設立された。ヘイスティングはスタンフォード大学でコンピュータサイエンスを学び、ソフトウェア開発会社に勤務、1991年には自身でソフトウェア企業PureSoftwareを起業するが、同社が1996年に買収されたことをきっかけに、ランドルフとNetflixを起業した。
Netflixを起業した当時、2人はこれからストリーミングの時代が来ると予測していた。とはいえ、当時のインターネットの通信速度は十分でなく、動画の配信をするには時期尚早だった。そこで、サブスクリプションモデルによるDVDのレンタルサービスを開始。月額3000~4000円で延滞料なしというサービスが受けてヒットした。そして2007年、インターネットの通信速度が十分な速さに達したところに、満を持してストリーミングサービスを開始した。なお、前年2006年にはYouTubeが動画共有サービスで成功をおさめており、当時は動画配信サービスの黎明期だった。
Netflixは既存の映画やドラマだけでなく、自社で制作したオリジナル作品も配信する。2013年にはハリウッドの有名監督や俳優を起用し、123億円もの制作費をかけてドラマ『House of Cards』を制作、エミー賞を受賞するなど話題になった。アメリカではケーブルTVの視聴に月額5000円ほど支払うのが一般的であるため、月額1000円で見たいときに好きなだけ質のいいコンテンツを視聴することができるNetflixは人気となり、加入者は右肩上がりとなった。
2015年には日本にも上陸したNetflixだが、認知度を上げるために同社がとったマーケティング手法がユニークだ。テレビのリモコンに「Netflix」のボタンを埋め込んだのである。リモコンの製造原価は100円ほど。ボタンを埋め込むにはリモコン製造費の10%を負担すればよい。2015年のテレビ出荷台数は250万台であったため、Netflixはわずか2500万円でリモコンの面を取ることができた。
年間2兆円近い番組制作費と
データ活用技術で既存プレイヤーを圧倒
動画はデータとの親和性が高い。ユーザーが巻き戻しや停止などの操作をした場面に誰が出演していたか、どんな表情をしていたか、どのような言動をとったかといったデータを集積し、AIで解析することが可能だ。Netflixが成長した背景には、こうしたデータ活用がある。ユーザーがどのシーンでどのような反応を示したかというデータは視聴率と同様に大切なデータであることを早くから認識し、データをもとにおすすめのコンテンツを提案したり、オリジナル作品を制作するなど、顧客満足度の向上に努めてきた結果だ。
5G時代には、2時間の映画がわずか数秒でダウンロードできるようになる。画像の閲覧と同じような手軽さで動画を視聴できる日がやってくる。Netflixが提供する動画配信サービスは一層勢いを増し、地上波やケーブルTVを淘汰していくだろう。
NHKは年間の番組制作費が7000億円、民放は800億円と言われている。Netflixはそれらを大きく超える1兆6000億円の番組制作費を有している(2019年12月期)。民放の広告モデルのようにスポンサーは存在しないため、ドラマ内容やキャスティングについて縛られることはない。ターゲットを絞って尖ったコンテンツを作ることができる点は同社の強みだ。
2002年に上場を果たしている同社は、2019年11月にコンテンツの制作や購入をおこなうための資金として社債を発行、2020年10月時点の時価総額は、新型コロナの影響もあり約22兆2000億円と日本最大のトヨタ自動車と同じ水準に達している。
近年、「AppleTV」や「Disney+」、「Amazon Prime Video」などビッグネームが次々と動画ストリーミングサービスに参入し、同業界では競争が激化している。想像できる世界は、こういったストリーミング配信側がハードウェアを安く提供しユーザーを囲いこむことだ。中国では動画配信の「愛奇芸(iQIYI)」が家電大手と組んで、現在20万円程する多機能な75インチのテレビを約5万円で販売する試みをしている。今後は日本でもこうした動きに備える必要がある。