以上、「2.手段の目的化」と「5.目的を理解していない人の登用」の理由による「ブレ」は不適切かもしれないが、「1. 目的の多様化」や「3. 事業環境の変化」や「4.目的間のコンフリクト」はむしろ、時局や事業環境への適切な対応や反応であるだろう。
また、組織のメンバーは、自分を中心にしかモノ・コトを見ないので、自分の視点から見ると別の目的を重視するリーダーは大きくブレている人のように見える。しかしながら、リーダーはすべてのステークホルダーの視点を考慮し、かつ長期と短期の両方を見ながら、正しいと思われる目的の実現に向けた意思決定をしなければならないので、本当に大変である。普通のトップはブレる。環境変化が激しくなるとブレにブレる。文句を言っても仕方がない。
ブレないリーダー
二つのタイプとは?
しかしながら、このような場面においても“ブレないトップ”はいる。では、こんなトップはどんなことを考えているか。おおよそ二つのパターンがある。一つは、当人にだけは本来の目的を実現するためのシナリオが見えているためブレないケース。もう一つは、そもそも目的なんか持っていないケースである。
(1)当人だけは目的実現のシナリオが見えているケース
トップの対応は多岐にわたるが、本人の中で、最終的にどのようなことを実施するかというビジョンが明確であり、あらゆることがその実現の方向に向けて実行される。ビジョンに共感する者の目にはブレないリーダーとして映るが、共感しない人にはブレブレの一貫性のない支離滅裂なリーダーに感じられる。
反対派が台頭するとつぶされることもあるので、このようなリーダーが許容されるのは、社内の権力基盤がしっかりしているときに限られる。オーナー社長が、周囲からの非難にもめげずに粛々とさまざまな施策を打ってそれを進めていく場合などだ。一方で、普通のサラリーマン社長では、よほどの成果がないと早々にトップの座から引きずり降ろされる。
(2)目的などどうでもよいケース
実はこういう難局に強いのは、もともと組織の目的などどうでもよいトップである(もちろん、そうとは表立って言わないが)。こういうリーダーにとっては、過去の歴史やそこから来る遺産は、守るべきものではなく、使える経営資産である。市場を見て、組織を見て、どの領域に行けば組織が生き残れるのか、利益を生み出すことができるのかを冷静に見極めようとする。崇高な目的ではなく、数字によって判断する。