中央銀行が大きな需要に
従来、株、債券、不動産などが投資商品の中心だったのも、それぞれの価値がドルの信用によって支えられていたからです。
ところが、「3つ目の理由」でも触れたように、マネーサプライが増えるほどドルの価値は下がります。
では、市場のドルを増やしている当事者の中央銀行は、金とどのように向き合っているのでしょうか。
中央銀行は、各国の金融機関の中心的存在となる機関で、その国や地域のお金を発行します。先進国の場合、アメリカはFRB、日本は日本銀行、イギリスはイングランド銀行、ドイツはドイツ連邦銀行、ユーロ圏はECB(欧州中央銀行)がそれぞれの国・地域の中央銀行です。
各国や地域の中央銀行は、通貨を安全に流通させたり、物価や金融システムを安定させることを目的として市中の銀行や国から自国の通貨を預かりますが、為替介入や通貨危機が起きたときの準備資産として、ドルや金も保有しています。
「4つ目の理由」で説明した通り、ドルと金価格は逆相関の関係であるため、外貨資産として世界の基軸通貨のドルを持つとともに、一定量の金も持っているのです。
中央銀行全体が保有する金は、地上在庫(採掘済みの金)の17%に及ぶといわれます。保有量が多いのはアメリカのFRBで、中央銀行全体が持つ量の25%を保有しています。
中央銀行全体で保有量の推移を見ると、1990年代から2009年までの約20年間は売却した量のほうが多く、2010年からは購入のほうが多くなっています。
90年代から売却していたのは、主に、イギリス、イタリア、フランスなどの欧州各国です。
金が金利を生まず、保管のための場所とコストが必要で、当時の金価格が低迷していたため、中央銀行の財務が悪化するというのが売却の理由でした。
一方、経済成長中の新興国の中央銀行は2000年ころから急ピッチで金を買いはじめます。
輸出を通じて手持ちのドルが急速に増えたため、ドルを中心に外貨準備するリスクを抑えるために逆相関の金を持つ政策を進めたのです。
2020年11月時点では、アメリカの金保有量が8000トン超で飛び抜けていますが、ロシアや中国も2000トン前後の金を保有し、日本の保有量(765トン)を大きく超えています。トルコやインドも日本の保有量に迫り、アジアや中東各国も着々と保有量を増やしています。
このような買い需要の増加により、中央銀行全体の売買比率は売りから買いに変わりました。
また、欧州各国では金の売却による金価格の下落に歯止めをかけるために、各国の中央銀行の金売りを制限するワシントン協定を作りました。
この協定にアメリカや、アメリカ、ドイツの次に金を持つIMFも同意し、中央銀行による金売りが止まり、金価格の下落も止まります。
さらには、売り止まった金の価格が上がりはじめ、各国の中央銀行はますます金を手放さなくなります。
利息を生まないと思われていた金が値上がり益を生みはじめました。金が値上がりするということは、持っているだけで外貨準備資産が増えていくということです。
このような観点から、金の資産価値が再認識され、外貨準備資産として中央銀行に買われ、保有されるようになったのです。
金を買う側である個人にとっては、中央銀行のような大きな機関が買っていることが重要なポイントです。需要が大きく、大量の金が保有されていれば、金価格は下支えされます。
地上在庫の17%を大口が抱え込んでいるという事実が変わらない限り、金は安心して買えますし、保有できます。
また、金を買うという戦略は投資情報の分析とリスク管理能力で突出している中央銀行の戦略にならうということですので、その点でも安心できる投資だといえるでしょう。
(本原稿は『ゴールド投資──リスクを冒さずお金持ちになれる方法』からの抜粋・編集したものです)