たった2%におもしろがってもらえればいい

この手があったか! 作家・岸田奈美が教える「求められる場所」の見つけ方

岸田:怖くてできないというなら、無理する必要はないと思います。その危機回避本能もまた才能というか、突進型の私にはできないことだから。

 私の場合は、おとんが死んだり、おかんが急に車椅子生活になったりで、にっちもさっちもいかなくて、突進せざるを得ない状況がずっと続いているだけで、選択肢がなかった。もちろんたくさん失敗もするし、「口だけじゃん」と批判されることも多いけれど、突進しないよりしたほうが得られたものは多い。だから、後悔はしていません。とにかく人それぞれに、自分が納得できる道を選ぶことに尽きると思います。

川原:僕はとにかく「動け」と言いたいかな。できる範囲でいいし、おそるおそるのわずかな一歩でもいい。身震いするレベルでもいいから、1ミリでも動いていれば、誰かの目に留まるから。

岸田:ずっと動いていたら、誰かはおもしろがってくれるはずなんですよね。私は100人中98人から「もっとちゃんとしろ」と言われてきたけれど、2人から「そのままでおもしろい」と言ってもらえて、今があります。

川原:たった2%で十分なんですよ。1人が生きていくのには。

岸田:佐渡島さんから「100万人に好かれる作家を目指さなくていいから、1万人の心に残り続ける作家になろう」と言ってもらえたことも、よかったです。特に日本人って、全員に好かれようと頑張りすぎちゃうじゃないですか。

 そうではなくて、ごく少数でいいから、自分を評価してくれる人を見つけて、その人たちに向けて動き続けていけばいい。

川原:そのごく少数の人に出会うために、「ここだ」というスポットに釣り針を投げる必要があると思うんだけど、岸田さんの場合はどうやってスポットを探せたの?

岸田:やっぱり市場価値が高くて、目立てる場所を選ぶようには意識していました。私の場合は、昔からネットの世界にいて、以前は長文で読ませるテキストサイトが一世を風靡していたんです。ただ、それがTwitterやFacebookの台頭によって、空白期間が生まれていることに気づいていたんです。

 「あれだけ熱狂を集めた文字のコンテンツは、もう一度流行る可能性があるんじゃないの?」と思っていたました。

 私はテキストが大好きだし、「一度愛された文化は、もう一度愛されるんじゃね?」という確信があったから、「140字で終わる日記を2000字で書くブログ」を始めたという流れです。

川原:それが独自のポジションになっていった。すごいな。やっぱりすごく客観的で戦略的だし、セルフプロデュース力がある。ただのおかしなお姉ちゃんじゃないってことを、もっと多くの人に知ってもらいたい(笑)。

岸田:企業広報の仕事を9年していた経験も生きていると思います。「誰かの目に留まるために」という工夫をいろいろしてきたので。

川原:たしかに。苦労してきた経験が生きている!

岸田:広報時代は、プレスリリースを書くのが、最初は楽しめなくて。本当は長文を書くのが好きな人だから、A4サイズ1枚に収めないといけないことがつまらなく感じていたんです。しかも、小さなベンチャー企業だったから、単に会社のニュースや実績の数字を並べても、誰にも読んでもらえない。

 だから、ちょっと工夫するようにしたんです。自社のことだけではなくて、業界全体の動きやその中の立ち位置がわかるような内容を盛り込むようにしていって。

 すると、メディアの人が一番知りたい「ぶっちゃけどうなの?」に答える情報発信ができて、重宝されるようになったんです。「ああ、人はこういう情報を求めるんだ」とだんだん分かってくるという経験になりました。

川原:なるほど。人にどうやったら好かれるかを研究した。

岸田:それまで散々拒絶されたからこそ、分かるようになったんですよね。人に嫌われた経験の数だけ、好かれるための感度が上がるんだと思います。

川原:深い!