創造性の最大のボトルネックは
「自己批判」や「客観視」である

──今という時代は、「直感・感性」が大事だけれど、それだけではなく、それを「ビジネス文脈」に翻訳して、表現できる人材が今すごく求められているんですね。文字どおり「直感と論理をつなぐ」というところですね。

佐宗:そうなんですよ。だから、この本でも「妄想・知覚・組替・表現」という4つのステップからなるサイクルを紹介しています。最後の「表現」というのは、すなわち客観化なんです。表現して誰かに見せるところまでいく。それが大事だと思っています。

──「表現」の部分において、もっともむずかしいのはどういったところにありますか?

佐宗:やっぱり、一番は「自己批判」しちゃうところでしょうね。先日、多摩美術大学のTCLという社会人向けのプログラムで、デザイナーやビジネスパーソンに向けて、デザイン経営を学ぶワークショップをやったんです。

 僕が担当しているのは「パーパスをデザインする」というパートなのですが、そこでこの本にもあるようなワークをやると、「『自分のやりたかったこと』なんて今まで考えたことなかったけど、具体的に表現してみると、すごくしっくりきました!」という感想をたくさんの方からいただけました。じつは誰でも、ビジョンやりパーパスというのは心の中にあるんです。ただ、そのときにボトルネックになっているのが「うまく表現しないといけない……」という思いなんです。

 本来的には「表現そのもの」がうまいかはそれほど重要ではなくて、あくまでも「自分自身のイメージが表現できているか」が大事なんです。「自分自身の内側」と「表現」との差をどこまで縮められるかというか。

 でも実際には、他の人からどう評価されるか、誰かより上手とか下手とか、そういうところが気になってしまうものです。「絵とか工作は『うまく』なきゃいけない」という意識が世の中にあって、僕ら自身もその影響を受けているんですよね。

 ただ、その「うまくなきゃいけない」と思うこと自体が、クリエイティブとか、表現の思考を伸ばすうえで、一番のボトルネックになっているんです。

 イノベーションの話をしているときも同じで、「ぶっ飛んだアイデアが出せないから、オレはダメだ」って自信をなくす人が多いんですけど、「どれだけ革新的なアイデアを出せるか」は本質的なことではないんです。

 新奇なものほど目立つので、そこに頭がいってしまうのもわかるんですが、もともとは、自分の直感がとらえた妄想を、知覚して、組み替えて、表現するというシンプルな流れをやりさえすればいい。最終的な表現が「上手・下手」「新しいアイデアかどうか」が重要なわけではないんです。

──それはすごく重要なメッセージですね。ビジネスパーソンだけでなく、それこそ子どもの教育においても、非常に重要な指摘だと感じます。「自己批判しちゃう」というか、「周りの評価で考えちゃう」ということ自体が、クリエイティブだったり、自らの直感や感性を大事にする思考を損なってしまうんですね。

佐宗:本当にそうです。だから、表現を「誰に見せるか」っていうのは大事だと思っています。実際のワークショップでは、ペアワークとかにして「自分と相手だけ」という感じで見せたりもしています。

 自分と相手だけだったら、自分以外には一人しかいないので、「どれだけうまくできたか」とか「どれだけ革新的なアイデアか」という視点になりにくいので。表現のステップでは、そういうちょっとした注意が大事かなと思っています。

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