不確実な世の中を生きるわれわれは、日々それになんとか「対応」しようとしながら生きています。しかし、「変化に”対応する”だけの生き方は危険。それではいずれ疲弊してしまう」──そう警告し続けるのは、戦略デザインファーム「BIOTOPE」代表の佐宗邦威さんです。
時代感度にすぐれたインフルエンサーや第一線で活躍するビジネスパーソン、教育関係者に支持されている佐宗さんの著書『直感と理論をつなぐ思考法 VISION DRIVEN』を入り口にしながら、今という時代に私たちが身につけるべき力について聞いてみました。(取材・構成/イイダテツヤ)

なぜ論理的な人ほど、周囲に振り回されて疲れ果てていくのか?

求められているのは
「肌感覚を形にする技術」

──佐宗さんの『直感と論理をつなぐ思考法』という本では、タイトルにもある通り「直感」と「論理」をつなぐ方法が書かれているのですが、そもそもこうしたテーマを書こうと思ったきっかけは何だったんでしょうか?

佐宗:すごく印象に残っているのは「1つ前のアメリカ大統領選挙」ですね。トランプが勝利した、あの結果が出たときでした。

 それまでも「VUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)の時代」などと言われて、変化はどんどん激しくなっていましたが、あの大統領選を見たときに「いよいよ本当に読めない時代になってくるな」と感じました。そして、ちょうど3歳になった娘の顔を見ながら、「この子がこれからの世界を生きるうえで、自分は何を伝えたいだろうか?」と考えたんです。

 そのときの自分なりの答えは、「自分が身体で感じているもの」を「形にしていく技術」が必要になるんじゃないかなというものでした。

 最終的に、この本は『思考法』というテーマに落ち着きましたが、いわゆる「デザイン思考」や「アート思考」の裏にある、いわば「創造的な生き方をするための認知活動のシフト」に焦点を当てた本を書きたいと思っていたんです。

──「先が読めない時代」になると、「自分の中にあるビジョンを形にしていくことが大切になる」というのは、どのようにつながっていくんでしょうか?

佐宗:先が読めない時代っていうのは、ただ受け身でいるとすごくつらいんですよね。

 たとえば、仕事をしていて、想定外のことがどんどん起こってくる。すると、がんばって対処するじゃないですか。外のことが変化しているので、それに対応するのは当然なんですけど、ずっとそれだけをやっているとやっぱり疲れてしまう。ひたすら変化に対応し続けなければならないので、つらいんですよ。

 でも、世の中が混乱していたり、不確実な時代のなかで、自分が主導権を持って「こういうことをやっていこう」「こういう未来をつくっていく」という、自分なりの「未来イメージ」や「未来ビジョン」をもとに動いていれば、明らかに疲れにくくなる。外で起こっていることを主体的に意味づけできるので、もっと豊かに生きられると思うんです。

 これはストレスに対する考え方と同じです。ずっと受け身でいるとストレスを感じ続けてしまうんですが、自分から主体的・創造的に向き合っていると、それは楽しみに変わっていく。そういう側面がありますよね。

 もともと、人間は不確実なものに対して逃げたくなる生き物ですけど、それに対して、クリエイティブになるというか、「この環境をハックして、今はまだ存在していない、新しい何かをつくっていこう」という姿勢で向き合うのは、不確実な世の中をうまく乗りこなしていく1つの技術なんじゃないかなと考えたんです。

なぜ論理的な人ほど、周囲に振り回されて疲れ果てていくのか? 佐宗邦威(さそう・くにたけ)
株式会社BIOTOPE代表/チーフ・ストラテジック・デザイナー 大学院大学至善館准教授/京都造形芸術大学創造学習センター客員教授 東京大学法学部卒業、イリノイ工科大学デザイン研究科(Master of Design Methods)修了。P&Gマーケティング部で「ファブリーズ」「レノア」などのヒット商品を担当後、「ジレット」のブランドマネージャーを務める。その後、ソニーに入社。同クリエイティブセンターにて全社の新規事業創出プログラム立ち上げなどに携わる。ソニー退社後、戦略デザインファーム「BIOTOPE」を起業。BtoC消費財のブランドデザインやハイテクR&Dのコンセプトデザイン、サービスデザインプロジェクトが得意領域。山本山、ぺんてる、NHKエデュケーショナル、クックパッド、NTTドコモ、東急電鉄、日本サッカー協会、ALEなど、バラエティ豊かな企業・組織のイノベーション支援を行っており、個人のビジョンを駆動力にした創造の方法論にも詳しい。著書にベストセラーとなった『直感と論理をつなぐ思考法──VISION DRIVEN』などがある。