自分を知って、発信していこう

小林:「何を大切に生きるか」を家族で共有することは大事ですよね。うちも毎月1回の墓参りを2004年から毎月欠かさず続けられているのは、妻もその大切さを理解していることで、子どもたちもこの時間がいかに大事か自然と伝わるし、それが我が家における明確な「well」になっている気がします。

 その延長で、我が家における最重要項目は「家族が安心安全で生きられることである」とみんなで共有できているから、コロナ禍で娘や息子たちの外出をどこまで認めるのかという基準も議論しやすかったと思います。「友達はディズニーランドにみんなで遊びに行っているよ」「でも、うちの場合は違うよね」と話を進めることができる。親の押し付けになることも多々あるかもしれないけれど。

川原:お子さんたちがセイチュウさんや奥さまの示す「well」を守ろうとすることができるのは、親の二人がちゃんと楽しく前を向いて生きているからだと思うんです。指針を示す人が苦しそうに生きていたら、「そうはなりたくないよ」と反発するはずなので。

小林:そうなっているといいですね。あと、家族会議で子どもたちの意見を聞く段階を踏むプロセスも大事にしています。「できない」と反発が出たら、「なぜできないかを考えよう」と一緒に話し合うし、「一度決めたルールにずっと従わなきゃいけないわけではないし、いつでも変えられる」とも話しています。

川原:健全なカルチャーですね。そのまま会社のリーダーシップに活かせそうです。

小林:すべてのメンバーが言いたいことが言える心理的安全性は、家庭でも会社でもつくっていきたいなぁと思っています。言い換えると「言いたい放題」で大変なんですけど(笑)

川原:でも日本の企業社会では、なかなか自分らしい状態になるのが難しいですよね。何か解決策はありますか?

小林:『Be Yourself』の第3章に「自分を発信する」とありましたよね。この“発信”がポイントになると思います。何かやりたいことがあるのなら、とにかく口にしたり書いたりして、周りの人たちに知ってもらうのが第一歩。「この人は○○にチャレンジしたいと思っている人」と分かりやすく伝えるブランディングを積極的にすることがチャンスを呼ぶはずなのですが、日本人は遠慮や謙虚さが先に立ってなかなかやらない。

川原:もったいないですよね。アメリカ人は、できなくても「できる」と主張するくらいなのに(笑)

小林:発信するにはまず、自分を知ること。これは『Be Yourself』の第1章に書かれていましたね。

 会社の1on1ミーティングの仕組みを使ってもいいし、同僚や友人に壁打ち相手になってもらって、自分が本当は何をしたいのかを、まずは自分が理解しようとすること。この本は、すごく実践的だと思いました。

 でもね、実は1ヵ所だけ「ここだけは私とは違う考えだな」と感じた点があったんです。言ってみてもいいですか?

川原:ぜひお願いします。

小林:「GIVEのし過ぎには注意しよう」というページがありましたよね。私はGIVEを制限するのが苦手で、頼まれたら基本的になんでも受けちゃうタイプ。でも、決して自己犠牲的な奉仕の精神でやっているかというとそうではなくて、「どんなにGIVEしようが、絶対にそれ以上にTAKEできる」という自信があるんです。

 すなわち、同じ出来事でもそこからTAKEできるかできないかは自分次第。だから、GIVEすればするほどTAKEになる。結構あざといんですよ(笑)

川原:100%同意です。実はご指摘の部分、初稿では、セイチュウさんと同じ理由で「GIVEしまくれ」って書いていたんです。でも、麻理恵さんから「これ、本当にそう伝えていいのかな?」と聞かれて、考え直したという経緯があったんです。

 僕は頼られるとつい頑張りすぎて消耗してしまうことが多かったんです。それを省みたとき、僕が言うべきなのは、「やみくもにGIVEする必要はない。自分が本当に力を注ぎたい相手に絞ったほうが未来のためになる」というメッセージだと思うに至り、書き換えたんです。でも、根底にある価値観はセイチュウさんと一緒ですね。

小林:楽天を辞めた卒業生にも、「いつでも相談に乗るぞ」と言っていて、本当によく頼ってくれてうれしいんですけど、「あれ、よく考えたら未来の競合になるんじゃないの」と気づいちゃったりして(笑)。でも、そのほうが世の中のためになるなら、それでもいいじゃないかと思っちゃうんです。結局、ゴールはそこなので。