企業も“well-doing”から“well-being”へ

川原:セイチュウさんのようなリーダーがもっと増えたら、日本は明るくなるだろうなぁ。楽天の経営としても、well-beingはこれからさらに重要なコンセプトになっていきそうですか。

小林:確実にそうなると思います。アメリカではすでに先行していますが、これからはヒューマンキャピタルに対して、企業がいかに投資しているかという情報開示が問われる時代になります。

 一時的な生産性を上げるには合理性を追求する“well-doing”でよかったかもしれませんが、今後はもっとサステナブルな“well-being”の視点が求められます。企業価値を向上するためにも、ビジネスサイクルを回している“人”が豊かであり続けられるかが、もっと重要になっていきます。

 企業のwell-beingは個人のwell-beingと不可分ですし、社会全体のwell-beingにつながっていく。壮大かつやりがいのあるテーマです。

川原:日本を代表するグローバル企業の一つである楽天が、well-beingに向かっているというのが非常に大きな希望だと感じます。

小林:簡単なことではないとも分かっています。個人のwell-beingを高めることがどう企業価値につながるのかという共通認識は、まだ十分に醸成されていませんから。今までのマーケットは財務情報で評価しますから、企業はどうしても短期的な利益を優先して動き、結果として個人の幸せは二の次になってしまう。

川原:急に変わるのは難しいと僕も思います。でも、できることは確実にある。まずは個人が一人ひとり時間の使い方のバランスを変えてみるだけで、社会全体のwell-beingもほんのちょっと高まるし、その集積でいつの間にか社会は変わっていくはずです。

 従来型の終身雇用の前提もほぼ崩壊し、会社と個人の境目はこれからもっと曖昧になっていく。個人の意識の影響力は高まるはずだと予測しているんです。

小林:同感です。そして、個人の意識を行動に変えやすい時代にもなっていますよね。先ほど、「三間」をつくることが大事だ話しましたが、少し前に内定者向けに話をする機会があって、ある内定者から「入社までの数ヵ月、何をして過ごしたらいいか」と聞かれたんです。

 私は、こう答えました。「例年なら旅を勧めるところだけれど、このご時勢なのでそれは難しい。でも、今だからかえってできるようになったこともある。例えば、本を読んで感銘を受けたら、その著者に直接コンタクトをとって『オンラインで30分、お話を伺う時間をいただけませんか?』と言ってみよう」と。

川原:さすが。確かに、今だからチャンスが広がっていますね。

小林:コロナの影響で移動が減った分、時間にゆとりができている人もいるはずだから、トライしてみる価値はありますよね。それに、本を出すほどの方々なら学習意欲も高いから、若い世代から得られる知見に興味を持つはずです。

 ただし注意点として強調したのは、“自分の価値づけ”もセットで依頼すること。「こんな経験をしてきた20歳の私からは、こんな価値を提供できると思います」といったGIVE視点は加えたほうがいいともアドバイスをしました。

川原:年齢や所属を問わず、誰もが「今の自分ができること」に目を向けて発信することができれば、「Be Yourself」な生き方に近づくし、そんな個人が増える社会こそが「well-being」。深くつながりますね。

小林:個人も企業も、自分にとっての「well」は何かを見つめ直すことから始めるといいと思います。今日はありがとうございました。

川原:こちらこそ! 僕もwell-beingな社会づくりに貢献できるように引き続き頑張っていきます。