ノーベル賞を外される
しかし、「核分裂の発見」に対するノーベル化学賞はハーンにのみ与えられ、マイトナーは外された。それでも、ほとんどの物理学者たちは、マイトナーが科学の世界において成しとげた偉大な功績を正しく認識している。
マイトナーは、戦時中、スウェーデンに留まり、原子核研究を続けながら若い研究者の養成にあたった。今日この研究所はマイトナー研究所と呼ばれている。一九四七年には、ベルリンの元の職場に復帰するように招かれたが、ハーンとシュトラースマンの懇願にかかわらず、その申し出を断った。
アメリカの原爆開発・製造のための「マンハッタン計画」に誘われたマイトナーは参加を固辞したという。彼女の墓には「人間性を失わなかった物理学者」と刻まれている。死後、彼女にノーベル賞受賞以上の名誉が与えられた。彼女の名から一〇九番元素はマイトネリウムと命名。その他、小惑星、金星や月のクレーターにも名前を残している。
※本原稿は『世界史は化学でできている』からの抜粋です)
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東京大学非常勤講師
元法政大学生命科学部環境応用化学科教授
『理科の探検(RikaTan)』編集長。専門は理科教育、科学コミュニケーション。一九四九年生まれ。千葉大学教育学部理科専攻(物理化学研究室)を卒業後、東京学芸大学大学院教育学研究科理科教育専攻(物理化学講座)を修了。中学校理科教科書(新しい科学)編集委員・執筆者。大学で教鞭を執りつつ、精力的に理科教室や講演会の講師を務める。おもな著書に、『面白くて眠れなくなる化学』(PHP)、『よくわかる元素図鑑』(田中陵二氏との共著、PHP)、『新しい高校化学の教科書』(講談社ブルーバックス)などがある。