「お金持ちになるにはどうしたらいいのか」という疑問にこの連載ではいろんな角度から答えを示していきます。お金持ちなら誰でも知っている秘密を明かしていきます。
その疑問の答えにたどり着くには「お金」「経済」「投資」「複利」、そして「価値」について知っておく必要があります。少し難しい話も出てきますが、今は完全にわからなくても大丈夫です。
資本主義の仕組みについても、詳しく解説していきます。なぜなら、資本主義の世界では、資本主義をよく知っている人が勝つに決まっているからです。
今後の答えのない時代において、どのように考えながら生きていけばいいのか、ということもお話ししていきたいと思います。さあ、始めましょう!
(もっと詳しく知りたい人は、3月9日発売の『先生、お金持ちになるにはどうしたらいいですか?』(ダイヤモンド社)を読んでください)
1000円の価値は
1000円のままではない
世界が順調に成長しているのに日本の成長が止まっているため、相対的に日本の経済的地位は落ちています。でもこの事実を見ても、「いいじゃん、今のレベルの暮らしが続くなら大丈夫」と思っている人も多いはずです。この人たちは、お金の価値、とりわけ円の価値が相対的に変わらないと信じているおめでたい人たちだと思いますよ。
今、皆さんのお財布には1000円札が入っていますか?このお札は1000円のモノと交換できるということで、1000円の価値があるとみなされています。皆さんは、1000円の値札が付いているモノは、ずっと1000円で買えると思っているのではないでしょうか。
ところが、1000円のモノは常に1000円で買えるわけではないというのが、リアルな経済の世界なのです。お金の価値は相対的な信用で成り立っています。お金の価値、とりわけ君たちが持っている円の価値を奪うものに2つの要因があります。一つはインフレーション、もう一つは円安です。通貨はその信用が大事です。通貨(円)に対する信用が落ちると、同じ1000円を持っていても買えるモノが少なくなってしまうのです。
インフレーションとデフレーション
インフレーション(インフレ)とは、物価が継続的に上昇する状態で、通貨の価値は下がります。たとえば、極端なケースでは、今日は100円でりんご2個買えたのに、翌日には1個しか買えないという状況です。景気が良くなると、インフレが起こりやすくなります。インフレ時には、企業の売上が増加し、従業員の給料が増え、モノを買おうとする意欲が生まれる、という循環が生まれます。
一方、デフレーション(デフレ)とは、物価が継続的に下落する状態を言い、通貨の価値が上がります。皆さんも何となく聞いたことがあると思いますが、これまで日本は長年に渡って「デフレ」を経験してきました。
理由はいろいろあります。1990年代に入ってバブル経済が崩壊し、景気が悪化したこと。経済のグローバル化が進み、中国など人件費の安いところから輸入されるモノが増え、安い商品が増えたこと。そもそもモノが余っていること。お給料が増えないため少しでも貯めようという意識から消費が抑制されていること。老後の不安からお金を使わなくなっていること。挙げればきりがないのですが、日本経済はバブルが崩壊してから30年も経つのに、物価はほとんど上がらず、状況によっては下がるというデフレを経験してきました。
物価が下がると、相対的にお金の価値は上がります。同じ1000円で買えるモノの数量が増えるからです。バブル経済が崩壊してからの30年間、日本人はただ現金を握りしめているだけで、相対的にお金の価値は上がっていたのです。
「先生、モノの値段が下がることはいいことじゃないんですか」
そう思いますよね。そう思って当然だと思います。でも、モノの値段が下がるということは、企業の売上が減るということです。それはお父さんお母さんの給料も減るということにつながっていきます。モノの値段が下がる以上に、給料が減ってしまったら、結局貧乏になってしまいますね。だから政府は、公共投資を増やしたり(財政政策)、世の中に出回るお金の量を増やしたり(金融政策)することで、人々のインフレ期待を高め、デフレ脱却を図る政策を採っていますが、いまのところ成功しているとは言えない状況です。
このままこのような政策を採り続け、国の借金が増え続けると、スタグフレーション、すなわち景気が悪いのにインフレが起こってしまうという最悪のシナリオになりかねません。これは給料が下がる中で物価が上がり、買えるモノが少なくなってしまうという現象です。
これを防ぐには、経済を健全に拡大することが必要です。財政政策や金融政策に頼ることなく、企業活動を自律的に活発化することで、経済のパイそのものを大きくしていくしかありません。現状維持などと呑気なことを言っていると、いずれインフレで現状維持すらかなわなくなるのです。
参考記事
資本主義の世界で、「現状維持」は
落ちていくのと同じである
“GoTo”に群がるさもしい人々
農林中金バリューインベストメンツ株式会社 常務取締役兼最高投資責任者(CIO)
京都大学法学部卒、ロンドンビジネススクール・ファイナンス学修士(Master in Finance)修了。1992年日本長期信用銀行入行。長銀証券、UBS証券を経て2003年に農林中央金庫入庫。2007年より「長期厳選投資ファンド」の運用を始める。2014年から現職。日本における長期厳選投資のパイオニアであり、バフェット流の投資を行う数少ないファンドマネージャー。機関投資家向け投資において実績を積んだその運用哲学と手法をもとに個人向けにも「おおぶね」ファンドシリーズを展開している。著書に『教養としての投資』『先生、お金持ちになるにはどうしたらいいですか?』(ダイヤモンド社)など。