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金や銀と同じくらい貴重…ナポレオン三世が最上のもてなしに使った「金属」とは?Photo: Adobe Stock

ナポレオン三世の食器

 続いては、鉄に次いで使用量が多いアルミニウムを見てみよう。アルミニウムは、軽量で加工しやすく耐食性もあることから、車体の一部、建築物の一部、缶、パソコン・家電製品の筐体など、さまざまな用途に使われている。

 アルミニウムが耐食性を持つのは、空気中で表面が酸化されてできた酸化アルミニウムの緻密な膜が内部を保護するからだ。また、この酸化皮膜を人工的に厚くつけて、さらに耐食性を高めている場合(鍋などの容器材料やアルミサッシなどの建築材料)もある(アルマイト加工という)。

 ちなみに、アルミニウムは地殻中に鉄よりも多くふくまれているのに、金属として取り出されたのはずっと遅い。それはなぜだろうか。

 アルミニウムを取り出すための原料は、ボーキサイトというオレンジ色の鉱石だ。ボーキサイトを精製してアルミナを取り出すのだ。アルミナの成分は酸化アルミニウム(Al2O3)だが、アルミニウムのイオン化傾向は大きく、アルミニウムと酸素が非常に強く結びついている。

 鉄鉱石ならコークスによって鉄と酸素の結びつきから酸素を外すことができたが、アルミナはコークスではびくともしない。

 アルミニウムは、一八二五年に、デンマークの物理学者ハンス・クリスティアン・エルステッド(一七七七~一八五一)が、一八二七年には化学者フリードリヒ・ウェーラー(一八〇〇~一八八二)がエルステッドよりも純粋なものを取り出すことに成功にした。

 彼らはアルミニウムよりもイオン化傾向が大きく、酸素などと強く結びつくカリウムという金属を使ったのである。カリウムはアレッサンドロ・ボルタが発明した電池を多くつなぐ「電気分解」という方法でようやく少量が取り出せる。そして、塩化アルミニウムと混ぜて加熱すると、カリウムが塩化アルミニウムの塩素を奪って塩化カリウムになり、アルミニウムを得ることができたのだ。

 当時、アルミニウムは、金や銀と同じくらいに貴重なものだった。ナポレオン三世は自分の上着のボタンをアルミニウムでつくらせた。また、アルミニウム製の食器を重要な来賓に供しており、ふつうの客には金製の食器を使っていたといわれている。

 現在の私たちの感覚からすると妙に思えるが、人は希少性に価値を感じるということなのだろう。ナポレオン三世にとっては、ありふれた金よりもアルミニウムの食器を使うことが、最上のもてなしだったのだ。