人間力より「しくみ」

――安藤さんも、以前は識学とはまったく違った考え方をしていたようですが、識学に出会ったときは、どんな印象というか、衝撃を受けたんでしょうか?

安藤:以前は私も真逆の組織運営をやっていました。

リーダーの仮面』にも書いているんですが、当時のことを整理して考えてみると、「人を動かす」のは、学校の科目で言う「国語」だと思っていました。

 人の感情を読み取ったり、言葉と言葉の間にある空気を感じ取る。

 そういう感じです。それって国語の領域じゃないですか。

 でも、識学に出会って「完全にしくみで動かすことが大事だ」ということがわかったんです。数学や物理に近いものですね。

 それがわかったときは本当に衝撃でした。

 そのほうが圧倒的に再現性が高いし、明確に結果も出る。

 よく、リーダーは人間力が必要だと言われますが、それは個人の素質や能力によるところが大きい。そういう変えられない部分は、組織運営においてあまり影響しないんです。

――リーダーにとって、人間力やリーダーシップは関係ないんですか?

安藤:ないよりはあったほうがいいかもしれません。

 でも、成果を上げるという意味ではほとんど関係ないですね。

 徹底してやり切ることができれば、そこはしくみの話なので、人間力によるリーダーシップは関係ないです。

 仲間とか、友だち関係のなかでリーダーになるには、当然、人柄とか、コミュニケーション力など、いわゆる人間力が必要でしょうけど、組織のなかで目標を達成するのには必須ではありません

 唯一例外があるとすれば、創業者や経営者でしょうかね。

 経営者は対外的な付き合いや会社のイメージを与えることもあるので、人間的な魅力が必要な場面もあるでしょう。でも、組織の中のリーダーは、人間力、コミュニケーション力、リーダーシップなどは必須ではないと考えます。

――リーダーになれる人となれない人という違いは、存在するのでしょうか?

安藤:私は基本的に「リーダーに向いている、向いていない」というのはないと思っています。

 強いて言うなら、徹底できる人かどうかですかね。

「しくみ」で動かすわけですから、そのしくみに則って、徹底できるか、どうか。そこだけです。

 そうやって「人間力は関係ない」「しくみが大事」と言うと、すぐに表面だけを切り取って、「冷たい」とか、「人を大切にしていない」と反発する人がいます。

 しかし、逆です。

 識学の基本にあるのは「人はみんな同じで、誰でも成果を出せる」という前提です。

 優秀な人は結果が出せるけど、そうでない人はダメ、という考え方ではありません。

 もちろん、人によって頭がいいとか、悪いとか、そういうことはあるかもしれませんが、数学や物理の原則というのは、時間はかかっても、その原則を理解さえすれば、必ず問題は解けます。

 国語のように「作者の気持ちを理解しなさい」と言われたら、人によってはいつまで経っても問題は解けないかもしれませんが、数学や物理は違います。公式に当てはめれば、みんなが同じ答えを導くことができます

 だからこそ、どんな人でも、徹底してやりきれば必ず成果を出せるリーダーになれますし、メンバーだって同じです。

 識学の基本は、採用したからには、全員を生かし切る

 自ら離れていく人をつなぎとめる権限はこちらにはないので、その人を追うことはしませんが、自分の意思で組織にいる以上、すべての人を生かすのは基本中の基本なんです。

個を生かそうとする組織が絶対にハマる「落とし穴」安藤広大(あんどう・こうだい)
株式会社識学 代表取締役社長
1979年、大阪府生まれ。早稲田大学卒業後、株式会社NTTドコモ、ジェイコムホールディングス株式会社を経て、ジェイコム株式会社(現:ライク株式会社)にて取締役営業副本部長を歴任。2013年、「識学」という考え方に出会い独立。識学講師として、数々の企業の業績アップに貢献。2015年、識学を1日でも早く社会に広めるために、株式会社識学を設立。人と会社を成長させるマネジメント方法として、口コミで広がる。2019年、創業からわずか3年11ヵ月でマザーズ上場を果たす。2021年1月現在、約2000社の導入実績がある。主な著書に『リーダーの仮面』がある。

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