私はこれまで、「識学(しきがく)」という意識構造学を通して、多くの組織の問題を解決してきました。「識学」とは、組織内の誤解や錯覚がどのように発生し、どうすれば解決できるか、その方法を明らかにした学問です。
2020年10月時点で、約1900社の会社が識学を導入しています。また、2019年度に新規で上場した会社のうち7社が識学を導入しており、「いま、最も会社を成長させる組織論だ」と、口コミを中心に広がっています。
​本書『リーダーの仮面』は、そんな識学のメソッドを元に、「若手リーダー」に向けてマネジメントのノウハウを伝えます。本書の内容は、人の上に立つ立場の人であれば、誰しもが気づきを得られるものになっています。

「正しい評価」なんて
されるわけがない?

 リーダーは部下に対して、「自分は今、どういう位置に身を置いているか」を正しく認識させることが大切です。

 部下が自分の位置を誤解したままでは仕事が進みません。

 リーダーがすべきことは、「誰から評価されるのかを理解させること」です。

 人間は誰かから評価されないと生きていけません。

 誰かから評価されて、その対価として給料などの、生きるための糧を得ています。

 それが社会の仕組みです。

 自分が糧を得るにあたり、「今、自分が評価を得なければいけない存在は誰なのか」を正しく認識する必要があります。

 組織においては、通常の社員は直属の上司に評価される存在です。上司はそのまた上司に評価されます。

 トップにいる社長を評価する人は、組織の中には存在しませんが、社長は、お客さんや株主など、「社会」から評価されます。

 当たり前のように聞こえますが、問題を抱える組織では、この当たり前のことができていません

 また、「評価」という言葉を聞くと、次のようなことを思わないでしょうか。

「正しく評価なんかされるわけがない」
「上司は全然自分を見てくれていない」

 部下の人たちをヒアリングすると、そんな意見が返ってきます。

 それは、リーダーが感情による評価をしていることが原因です。

 リーダーには「平等に見ること」が求められます。つまり、仮面をかぶって事実だけで評価を下せているかどうかが問われるのです。

対比思考Photo: Adobe Stock

リーダーは「お願い」をするな

 平等とは、対等という意味ではありません。

「位置を明確にしたコミュニケーション」を部下たち全員にできているかが大事です。

 たとえば、部下に仕事を任せるとき、次のような言い方をしていないでしょうか。

「時間があるときで構わないので、資料まとめておいてくれない?」
「やりたくなかったら断ってくれていいんだけど、この仕事できるかな?」

 これらは、典型的な「位置」を間違えた言い方です。

 平等と対等を混同しています。

 特にプレーヤー気分が抜けない若手リーダーが言いがちです。

 これが間違っている理由は、2つあります。

 1つめは、「決定権が部下にあること」。

 2つめは、「責任の所在を曖昧にしていること」です。

 1つめの決定権が部下にあるのは、すぐにわかるでしょう。「いま、ちょっと忙しいんです」「やりたくありません」と、簡単に断ることができてしまうからです。

 大事なのはもうひとつの「責任の所在」です。

 本来は、指示に対しての実行責任が部下にもあり、実行の結果責任は上司にあります。

 部下に決めさせるような言い方なので、結果が悪かったときに、「実行することを決めたあなたが悪い」「引き受けたのに、なぜうまくいっていないんだ」と、後から部下に責任を押し付けることができてしまいます。

 先ほどの言い方は、指示ではなく「お願いごと」です。

 対等な関係、もしくはお願いされたほうが上の立場になってしまうような言い方です。こういった位置を間違えたコミュニケーションを、徹底的になくさなければいけません。

安藤広大(あんどう・こうだい)
株式会社識学 代表取締役社長
1979年、大阪府生まれ。早稲田大学卒業後、株式会社NTTドコモ、ジェイコムホールディングス株式会社(現:ライク株式会社)を経て、ジェイコム株式会社にて取締役営業副本部長を歴任。
2013年、「識学」という考え方に出会い独立。識学講師として、数々の企業の業績アップに貢献。
2015年、識学を1日でも早く社会に広めるために、株式会社識学を設立。
人と会社を成長させるマネジメント方法として、口コミで広がる。2019年、創業からわずか3年11ヵ月でマザーズ上場を果たす。2020年10月現在、約1900社の導入実績がある。
主な著書に『リーダーの仮面』(ダイヤモンド社)などがある。