火の発見とエネルギー革命、歴史を変えたビール・ワイン・蒸留酒、金・銀への欲望が世界をグローバル化した、石油に浮かぶ文明、ドラッグの魔力、化学兵器と核兵器…。化学は人類を大きく動かしている――。化学という学問の知的探求の営みを伝えると同時に、人間の夢や欲望を形にしてきた「化学」の実学として面白さを、著者の親切な文章と、図解、イラストも用いながら、やわらかく読者に届ける、白熱のサイエンスエンターテイメント『世界史は化学でできている』。発売たちまち4万部を突破し、池谷裕二氏(脳研究者、東京大学教授)「こんなに楽しい化学の本は初めてだ。スケールが大きいのにとても身近。現実的だけど神秘的。文理が融合された多面的な“化学”に魅了されっぱなしだ」と絶賛されたその内容の一部を紹介します。好評連載のバックナンバーはこちらから。

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『もののけ姫』の舞台

 鉄づくりの方法はオリエントから南回りでインドから江南(揚子江周辺地)経由で日本に伝わった。江南では青銅器が盛んにつくられていたが鉄づくりも行われていた。日本における鉄の生産が始まったのは、弥生時代の後半から末期頃だと推定されている。

 日本では「たたら製鉄」による鉄づくりが発展していく。たたら製鉄とは、炉内に原料と木炭を入れて火を付け、「ふいご」で送風して火力を高めて精錬する方法である。

 宮崎駿監督のアニメ映画『もののけ姫』は、中世(室町時代の頃)の日本の鉄をつくる村が舞台だ。威勢のいい女性たちが踏み板を踏むシーンがあるが、あの踏み板は、鉄をつくる炉に空気を送る「ふいご」である。実際は大変な重労働なので、女性が踏むことはなかっただろうが、「たたら製鉄」の様子が見事に描かれていた。

「たたら製鉄」では、炉に砂鉄(磁鉄鉱という鉱物の粒。成分は酸化鉄)と木炭を交互に入れる。一度火を入れると、三日間休みなく作業が続けられる。炉は最後には取り壊されるので、一回ごとにつくり直される。できた「ケラ」と呼ばれる鉄のかたまりには良質の鋼(玉鋼という)もふくまれる。

 日本刀などはこうしてつくった「玉鋼」を叩き延ばしてはそれを折り返し、赤熱のまま叩いて接合するという操作を十数回もくり返してつくる。ちなみに、ケラのその他の部分は大鍛冶場と呼ばれるところで鍛錬されて、包丁やさまざまな道具の素材となるのだ。

 こうして幕末から明治初期には最盛期を迎えた「たたら製鉄」も、膨大な労力がかかるために、明治時代後半には溶鉱炉を用いた洋式製鉄法に取って代わられた。そして、大正末期には完全に姿を消してしまった。

 現在では、伝統技術の保存のために、たたら製鉄法が再現されるようになった。日本美術刀剣保存協会が島根県に「日刀保たたら」を建設し、冬にだけ操業して、つくった玉鋼を日本刀づくりのために使っている。

(※本原稿は『世界史は化学でできている』からの抜粋です)

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