キャッシュフロー・マネジメント術#6Photo:erhui1979/gettyimages

実は新規事業立ち上げにおいては「自社の経営資源が活用できるのか」「市場が有望かどうか」「競争優位性を確立できるのか」といった点以上に大事なことがある。キャッシュフロー・マネジメントの“ある視点”が抜けていると、立ち上げが順調でも不幸な結末を迎える可能性が高いのだ。ダイヤモンド・オンラインでの連載や会計の著書を多数執筆する矢部謙介・中京大学教授が易しく解説する。特集『課長は理解必須!キャッシュフロー・マネジメント術』(全6回)の最終回では、新規事業立ち上げ時のキャッシュの重要性を伝授する。

市場の有望さや競争優位よりも大事な
キャッシュ・マネジメントの視点

 新規事業に挑戦する企業は多いと思います。しかし、その際にも、キャッシュの管理は非常に重要です。強い顧客ニーズがあり当初は好調でも、キャッシュの観点からはハードルが高いビジネスモデルは確実に存在します。

 それでも「有望そうだから」「売り上げは上がっているから」と無理を続けると、厳しい結果に終わってしまいます。そうならないためにも、ここまでの回で学んだ知識を生かして、「新規事業と資金繰り」について解説していきます。

 以前、A社(仮名)というベンチャー企業のコンサルティングをしていたときのことです。その会社の経営者からある相談を受けました。A社は、主にサービス業を中心としたビジネスを手掛けていたのですが、新規事業として、海外のある家具製造会社から高品質な家具を輸入するビジネスを立ち上げていました。

 その海外の家具製造会社は高い家具製作技術を有していながら、低コストで家具を生産することができるため、その製品は高品質と低価格を両立するものでした。実際、試験的に輸入した家具の売れ行きが好調であったため、A社では、家具輸入ビジネスを有望な事業だとみていました。

 しかし、このビジネスにはキャッシュ・マネジメントの点で大きな問題がありました。そこで、A社の経営者からこの新規事業の立ち上げについて相談されたときに、あるアドバイスをしたのです。

 そのアドバイスの内容と結末からは、「自社の経営資源が活用できるのか」「市場が有望かどうか」「競争優位性を確立できるのか」といった点以上に、新規事業立ち上げにとって大事なことが見えてきます。