入社1年目にも再雇用者にも響く「仕事で一番大切なこと」

コロナ禍で就活の荒波を越えた新卒の社員も、転職や再雇用で入社したベテラン世代も、働き方がガラッと変わった今、誰もが「仕事で一番大切なことは何か?」を問われている。そんな中、新人研修、社内勉強会のテキストとして、大企業から官公庁まで多様な企業が採用しているのが『入社1年目の教科書』だ。サブテキストとして発売された『入社1年目の教科書 ワークブック』には、新入社員の悩みや質問に岩瀬さんが答えている「Q&A」も豊富で読み応えがある。
「部下や後輩を指導するために読んだら、自分ができていないことも多かった」という読者はがきも多く寄せられる、この「社会人の教科書」。発売されたのは10年前だ。なぜこんなにも普遍性と汎用性が高く、時代を超えても読み継がれているのか? 岩瀬大輔さんのお話からその秘密に迫った。
(取材・構成/樺山美夏)

いつの時代もどんな職種でも
「仕事の基本」は変わらない

――『入社1年目の教科書』は、大企業や官公庁をはじめとした組織の新人研修や社内勉強会のテキストとして多く採用されています。ライフネット生命を創業するまで外資系でしか働いたことがない岩瀬さんの本が、日本の企業や組織にここまで幅広く浸透したのはなぜだと思いますか。

岩瀬大輔(以下、岩瀬)仕事で大事なことは、どんなに時代が変わっても、ジャンルが変わっても変わらないと思います。僕は、NHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀』が好きでよく見るのですが、さまざまな分野のプロから異口同音に聞かれるのは「礼儀正しく」「丁寧にやる」「コツコツやる」……といった基本的なことです。信頼されている人はみな、結局、そういった基本を守り続けているのです。

それは、僕が働いていた外資系のコンサルティング会社や投資会社だけでなく、IT企業もメーカーもサービス業も、病院も官公庁も教育機関も、すべて同じだと思います。この本に書いたことは、それだけ普遍的で本質的なことなのです。

実は『入社1年目の教科書』は日本だけではなく、中国、台湾、韓国、タイ、ベトナムといったアジアの国や地域でも翻訳され、出版されています。

仕事の本質というのは、世界から見ても変わらないのだと思います。

――シニアの再雇用組にも、岩瀬さんの本がよく読まれているそうです。社会人の経験豊富な人でも、初心に返る必要を感じている人が増えているのかもしれません。

岩瀬 定年後に再雇用される人だけでなく、最近は、早期退職して転職するキャリア層も増えています。長く勤めた会社で当たり前だったことでも、他の会社では違うこともあるでしょう。あいさつは部下からするものだと思っていた人でも、新しい会社に入ったら、自分から年下の人にあいさつしなければいけなくなる……といったことも起こるかもしれません。

そのように、新しい職場で新たなスタートを切るとき、僕の本が背中を押す役目を果たしている部分もあるようです。自分の努力だけで初心に返ろうとしても、見栄や気恥ずかしさみたいなものが邪魔をして、素直になれない人もいるでしょう。そこで『入社1年目の教科書』を読んで「仕事の基本」を再確認しつつ、「本に書かれているのだから」と、頭でわかっていても実践できていなかったことをやってみるか、となるのだと思います。

編集者から聞いた話によると、読者はがきを送ってくださるシニア層の方から、「朝のあいさつをするようになりました」と書いてあったりするそうです。また、「部下育成や後輩指導のために買って読んだら、自分ができていないことが多くハッとさせられた」というコメントもよくあるそうです。社会人経験が長くても、仕事の基本ができていない人は意外と多いのかもしれません。

反対に、『入社1年目の教科書』を読んで、「仕事の基本は昔も今も変わってないんだな」と安心して、部下指導をおこなったり、新しい仕事をはじめたりする人もいるようです。時代が変わって、若い世代との考え方や価値観の違いを感じている人も増えていると聞きますが、仕事の原理原則はどの世代にとっても変わりませんから。