世界で活躍している人が、もし今入社1年目だったらどんなキャリアを目指す?

東大法学部卒業後、外資系のコンサルティングファームと投資会社を経て、ハーバードビジネススクールでMBAを取得。出口治明氏とライフネット生命保険を創業した岩瀬大輔さんは、現在は、国内のベンチャーキャピタルのパートナーとしてベンチャー企業を支援したり、さまざまな企業の経営に携わったりするなど、幅広く活動している。
この華々しい経歴だけ見ると、日本の若い世代にとって遠い世界のことのように思うかもしれない。しかし、岩瀬さんが新入社員時代に実践してきた「仕事の基本」をまとめた『入社1年目の教科書』には、誰でもできることしか書かれていない。しかも、10年前に発売された本にもかかわらず今も売れ続けて50万部を突破した。さらに3年前には『入社1年目の教科書 ワークブック』を発売、この2冊は、企業や官公庁の新人研修のテキストとして採用されている。
では、今のコロナ禍のような状況で岩瀬さんが入社1年目だったら、どんなキャリアを目指し、何をするだろうか? 今だからこそやるべきことや、本の内容をアップデートしたい点はあるのだろうか? 率直な意見を聞いてみた。
(取材・構成/樺山美夏)

ツールは変わった。
しかし仕事の本質は変わらない

―― 10年前に出た『入社1年目の教科書』の続編として、3年前に『入社1年目の教科書 ワークブック』が出ました。このワークブックの企画は、読者の声がきっかけだったそうですね。

岩瀬 それもひとつです。「『入社1年目の教科書』で読んだことが実際にできているかどうか、確認するための方法はありますか?」という読者の声がきっかけでした。

あとはやはり、ツールが変化したことも大きいです。『入社1年目の教科書』を出したのは2011年5月、当時はスマートフォンより携帯電話が主流で、LINEが使われはじめたばかりの頃でした。その年は、東日本大震災を機に、Twitter、FacebookなどのSNSも急速に広がりました。

それから10年経って、今では誰もがスマホを持ち、仕事でもLINEやSNSでやりとりするのが当たり前になっている人も増えています。ですから、仕事関係者とのコミュニケーションツールとして、メール、SNS、電話をどう使い分ければいいのか?といったことも、アップデートする必要があると思いました。
(編集部注/総務省によると2011年のスマートフォンの個人の普及率は14.6%だった。2019年は67.6%に)

――『入社1年目の教科書 ワークブック』で特に興味深かったのは、入社1年目の読者の疑問・質問に岩瀬さんが回答している「Q&A」です。「宴会芸は死ぬ気でやれ」というルールに強い抵抗を示す質問もありましたが、時代の変化を感じた部分はありましたか。

岩瀬 「宴会芸は死ぬ気でやれ」というのは1つの例(メタファー)です。チームで何をするときに、自分ができる役割を探してチームに貢献すること、そして何事も全力で取り組む姿勢が大切だということをお伝えしたかったのです。

一緒に仕事したいと思える人は、仕事にも遊びにも全力で取り組む人です。

ですから、宴会芸を例にあげて、ここ一番で場を盛り上げる力や何事にも全力を出し切る姿勢が周囲からの信頼につながり、次のチャンスを呼ぶのだと伝えたかったわけです。ただ、どうしても宴会芸が苦手でやりたくないなら、幹事でも、受付でも、お店を手配する担当でもいいのです。今自分ができることを一生懸命に取り組むことが大事なので。

―― 目の前のことから逃げずに自分なりにベストを尽くせ、ということですね。

岩瀬 仕事はチームプレーです。チームでプレーする際に、自分だけ「あれは嫌だ。これもできない」とわがままを言うわけにはいきません。信頼されたいなら、1プレーヤーとして自分の役割に徹して、やるべきことに楽しく全力で取り組んだほうがいいのです。それは、ただ目立てばいいという意味ではなく、例えば会場のゴミを拾って帰ることでもいいでしょう。人が面倒だと思うようなことを率先してやる人は信頼されるはずです。

そういった仕事の本質をより深く理解してもらうために、『入社1年目の教科書 ワークブック』には「Q&A」をたくさん盛り込みました。

結局、仕事の本質って、10年前も100年前も、もっと言えば江戸時代でも平安時代でも変わらないのではないでしょうか。