「上司が無能」だと思っている人に
伝えたいこと
―― 岩瀬さんの「目上の人を尊敬せよ」というアドバイスに対し、「上司に良いところがない」「目上の人を尊敬する意味がわからない」といった相談も寄せられています。考え方や価値観が違う、世代間ギャップの問題もあるのかなと思いました。
岩瀬 上司の席に座っている人は、その人よりもできることがあったり経験が豊富だったりするから、その席に座っているはずです。それに、人には誰でも長所、短所があるし、得手不得手もありますよね。何か1つでも上司の良い点を見つけようとすれば、見方も変わると思います。
上司を「無能」だと思っている読者からの質問もありましたけど、その人の上のポジションまで出世している人なら、そうなった何かしらの理由があるはずです。9割は残念な人なのかもしれないけれど、1割は信頼されているポイントがあるかもしれない。そのくらいのつもりで、今までの思い込みをいったん捨てて上司を見ることが大事です。
社内では評判が悪くても取引先からの信頼が厚かったり、口は悪くても意外とマメだったり、見えないところに良い部分が隠れている人もいます。それでも、本当に良いところが何もない上司であれば、反面教師として観察して自身の学びにすればいいのです。残念な例を自ら示してくれている、という意味で長所が見つかったといえるかもしれません。
―― 最後にもうひとつお聞きします。最近は、せっかく就職しても「出世はしたくない」「仕事はほどほどで生活できればいい」「好きなことをやりたい」という人が増えているという話も聞きます。そういう考え方についてはどう思われますか。
岩瀬 やりたいことは、お金をもらってやるのではなく、自分からお金を払ってやるべきだと思います。給料は、誰かのために何かをやってもらえるものですから、当然やりたくないこともいくらでもあるでしょう。やりたいことをやりたいのであれば、趣味やサークルなど、お金を払って実現できる場所で思い切り楽しめばいいと思うのです。
ただ、やりたくないこともある仕事の中で、自分が好きなことや得意なことを活かせるようになれば、それはすごく幸せなことでしょう。しかし、そういう希望を持つのも、仕事ができるようになってからの話です。入社1年目の人なら、「好きな仕事をしたい」ではなく、「好きな仕事をやらせてもらえるような、周囲から信頼される『仕事ができる人』になりたい」と思いましょう。そして、とにかく目の前の仕事に全力で取り組んでください。そこからきっと、自身のキャリアが大きく花開くはずです。
ライフネット生命保険株式会社創業者
1976年埼玉県生まれ。1997年司法試験合格。1998年、東京大学法学部を卒業後、ボストン コンサルティンググループ等を経て、ハーバード大学経営大学院に留学。同校を日本人では4人目となる上位5%の成績で終了(ベーカー・スカラー)。2006年、副社長としてライフネット生命保険を立ち上げ、2013年より代表取締役社長、2018年6月より取締役会長に就任。同年7月より18の国や地域に拠点を有するアジア最大手の生命保険会社であるAIAグループ(香港)に本社経営会議メンバーとして招聘される(いずれも2019年退任)。2020年よりスパイラルキャピタルのマネージングパートナーに就任、テクノロジーで業界変革や産業創出を行う企業の支援を行う。また、ベネッセホールディングス、メドレー等の社外取締役も務める。著書は『入社1年目の教科書 ワークブック』(ダイヤモンド社)、『ハーバードMBA留学生―資本主義の士官学校にて』(日経BP社)、『生命保険のカラクリ』『がん保険のカラクリ』(共に文春新書)、『ネットで生保を売ろう!』(文藝春秋)など多数。
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