スピード感で劣るサムスン電子
国際世論における韓国の立場も逆風

 TSMCに次ぐ世界第2位のファウンドリーである韓国のサムスン電子の業績は、足元では良好だ。テキサス州での寒波による工場の操業停止という想定外の影響はあったが、短期的に同社の業績は堅調に推移するだろう。なぜなら、当面、世界的な半導体不足は続く可能性があるからだ。

 しかし、サムスン電子の競争力は、中長期的には不透明だ。その背景には、いくつかの要因がある。

 まず、同社はファンドリー特化の企業ではない。サムスン電子には家電、スマートフォン、垂直統合型の半導体メモリ事業があり、それに加えて、ファンドリー事業の強化に取り組まなければならない。それゆえ事業運営のスピード感と技術向上の両面で、同社がTSMCを上回ることは難しい。米クアルコムは昨年、サムスン電子に発注した5ナノメートルのチップ生産をTSMCに振り替えたとみられている。それは、最先端分野での技術力の差が大きかったからだろう。

 次に、国際世論における韓国の立場は、サムスン電子の事業運営に逆風だ。文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、安全保障面を米国に頼っているにもかかわらず、経済面での中国重視姿勢を強め、北朝鮮との融和を重視してきた。

 その状況下、主要先進国の企業は、安全保障にかかわる最先端の半導体製造装置や関連資材の対韓輸出に細心の注意を払わなければならない。昨年10月にサムスン電子の李在鎔(イ・ジェヨン)副会長がASMLを訪問しEUV露光装置の確保を目指したのは、技術面に加えて、世界経済における韓国の立場が不安定化していることへの危機感の裏返しだった。

 ASMLは技術面で優位性があり、さらなる成長が見込めるTSMCとの取引を重視しているように見える。中国への技術流出を恐れる米国がTSMCを重視していることも大きい。朴槿恵前大統領への贈賄罪などに問われた、経営トップの李副会長の収監も加わり、半導体メーカーとしてのサムスン電子とTSMCとの差は拡大するだろう。