「よそ者」「凡人」「門外漢」という
悪条件で組織を率いる

「よそ者リーダー」の教科書著者・吉野哲氏吉野哲(よしの・さとし)
1958年生まれ。中央大学経済学部卒業後、1982年伊勢丹(現・三越伊勢丹)入社。バイヤー職を経て、1996年伊勢丹グループのファイナンス子会社に経営企画の担当課長として出向。2000年に伊勢丹を退社。サザビー(現・サザビーリーグ)に移り、大型専門店事業のエストネーション設立に参画、有楽町店、六本木ヒルズ店等、複数店舗を展開。2004年5月に経営再生中の福助に招聘され、同年10月に取締役副社長就任。2005年4月から、前任藤巻幸夫氏の後任として、代表取締役社長を10年間務める。在任期間中には、コラボレーション・ブランドの立ち上げや直営店の出店を加速し売上を拡大、事業を安定化。また中国に福助(上海)商貿有限公司を設立、2006年11月にはカネボウストッキングを、2015年4月にはユニチカバークシャーをグループに迎え入れるM&Aを実施した。2013年12月、福助は株式交換により豊田通商の完全子会社となる。2015年福助社長退任後、同年6月より東証一部上場の染織加工会社・ソトーの社外取締役に就任(現職)。同年7月にはタオル美術館グループのグループ会社の代表取締役社長に就任し、2019年まで務める。その後、個人事務所「吉野事務所」を設立。大手企業とその関連企業、起業、企業再生、M&A、事業承継等、さまざまな現場に関わり続け、2021年からはベンチャーキャピタルが出資する企業の経営に参画し、現在に至る。本書が初の著書となる。2014年度中央大学大学院戦略経営研究科客員教授 2019年度中央大学商学部客員講師

望むと望まざるとにかかわらず、孤立無援の新天地でのリーダーを引き受けなければならない。生え抜きのエリートではない、“よそ者”として組織をまとめなければならない。
そうした状況に置かれたとき、いったい何を考え、どう行動すべきなのか。
何を意識し、どう対応すればいいのか──。
圧倒的多数の私たちが“よそ者リーダー”を引き受けざるをえない状況に立たされたとき、心得ておくべきことをお伝えしたいと思い、書籍『「よそ者リーダー」の教科書』にまとめました。

なぜ私が“よそ者リーダー”の心得を語ろうという思いに立ち至ったのかを少しだけお伝えします。
私自身は大学卒業後、大手百貨店に就職しました。
元々経営に関わる仕事がしたいという希望があり、30代後半から子会社のファイナンス会社で経営企画の担当課長を経験、そこではじめて会社経営というものに関わりました。
40歳を前に当時の仲間と一緒に新たな事業を立ち上げることを考え、その後新卒で入社した会社を退職し、事業会社の出資のもとで、イチから新規事業会社の立ち上げを行いました。

さらに4年後には、縁があり当時注目を集めていた再建中の企業の経営に参画し、翌年より10年間トップに就くという貴重な機会を得ました。その後も一部上場企業の社外取締役やオーナー企業グループの経営などに携わり、現在も企業経営の現場で日々四苦八苦しています。

こうした経歴からもわかるように、私自身、凡人でありながら常に“よそ者リーダー”というスタンスで会社経営に携わってきました。そして2021年も新たな会社で現在進行形の“よそ者リーダー”を務めているわけです。

企業の再建や問題解決の実績を評価され、今ではさまざまな会社から「経営陣に」とオファーをいただくこともありますが、正直言って、いまだ失敗や試行錯誤の連続。経営者としては模索中の身で、これまでのキャリアも、「失敗し、反省し、そこから学ぶ」の繰り返しのようなものです。
幸運にも赴(おもむ)いた先々の会社で成果を上げたこともありましたが、それとて数多くの手痛い失敗と、そこから得た貴重な学びがあったからこそだと思っています。
しかしながら、まったくのアウェーで、時には自分の専門外の会社で、「よそ者」「凡人」「門外漢(素人)」という悪条件を背負いながら、組織を率いることの難しさを、身をもって経験してきたという自負はあります。