ライターはいくらでも
嘘つきになれる職業

──本のなかでも「嘘をつかない」ことについては、何度も言及されていましたよね。古賀さんほど「ほんとうのこと」にこだわるライターはいないんじゃないかと思います。

古賀:ライターは、いくらでも嘘つきになっちゃう職業ですから。ものすごく気をつけないと、一文字、二文字変わるだけでも「嘘」になってしまうんです。

調べること、考えることをサボって適当に書くとか、なんとなくの雰囲気でごまかしながら書くとか。取材した相手の話をきちんと理解していないのに、わかったつもりになって書いてしまうとか。それは取材相手にも、読者にも不誠実だと思うんです。

話を「盛る」というのもそうです。これはぼくが尊敬する編集者さんから教えてもらった例なんですが、たとえば、コーヒーについて説明するとき。多くのライターがよく考えもせず「びっくりするほどおいしいコーヒー」と書いてしまったりするんですよね。

──ああ、身に覚えがあります……。

古賀:自らのことばに自覚的なライターなら、「おれはほんとうにびっくりしたのか?」と問いかけないとダメなんですよ。さほど驚いてもいないのに「びっくりするほど」と書くのは、明らかに間違い。あとは「涙でスクリーンが見えない!」と誇張したり、読者を煽ったりね。いやいや、スクリーンが見えないのは目をつぶってるだけじゃないかと(笑)。

──ああ、いま、お話を伺っていて、ほんとうに耳が痛いです(苦笑)。

古賀:うん、そうやって一個一個の言葉を何気なく選んでしまっているライターさんって、たくさんいるんですよ。無自覚に、適当に書いてしまっている。でも、「ほんとうにそうなのか?」と絶えず問いかけていかないと、読者に不誠実な嘘が混ざり込んでしまうんですよね。

──たしかに。

古賀:ぼくは自分が書いた言葉のひとつひとつに責任をもっています。たとえば、今回の『取材・執筆・推敲』は合計21万字くらいあるんですが、どの一文を抜き取っても、その言葉を選んだ理由を100%答えられる。仮に逆説の接続詞「しかし」があったとしたら、そこで「でも」でも「けれども」でも「ところが」でもなく、あえて「しかし」という接続詞を選んだ理由を、ぼくは全部説明できる。文から、曇りが取れている。

──そこまで「嘘をつかないこと」「ほんとうのこと」にこだわる理由は、なぜなのでしょう?

古賀:やっぱりライターという、「他人の言葉をあずかる仕事」をしてきたからでしょうね。とくにインタビュー記事や書籍執筆の場合、それが取材相手や著者の言葉として世に出てしまうじゃないですか。自分の言葉として書くエッセイであれば、多少適当な言葉が混ざっていても自分で責任をとればいい。でも、他人の言葉をあずかったなら、最終的な責任はこちらでとれませんから。理解しないまま書いた言葉によって、他人の評価を下げてしまったり、誤解を広めることにもなりかねない。

だから、自分はほんとうに「わかった」うえで書いているのか? と問いかけ続けるのはものすごく大切だし、「絶対に嘘を書くことはできない」というプレッシャーや戒めを常にもっています。

自分の心が動いたさまを、
忠実に原稿に落とし込む

──では、古賀さんは、「おもしろい」ってなんだと思いますか?

古賀:まず、「技術さえ身につければ、『いい原稿』は誰にでも書ける」というのがぼくの根底にある考えです。これは英文法と英作文を学ぶようなもので、ちゃんとした先生にちゃんと教わりさえすれば、技術は身につけられる。そこに文才は関係ない。

でも、「いい原稿」と「おもしろい原稿」には圧倒的な差があるんですよ。

──圧倒的な差。

古賀:ぼくの考える「いい原稿」は、情報が過不足なくまとまって、読者もすんなり理解してくれて、こちら側のメッセージも正確に伝わる原稿。それプラス、「おもしろい」というのはまったく別枠のところにあって。

ぼくは、バトンズというライターを育てることを目的とした会社をやってきて、『20歳の自分に受けさせたい文章講義』という本も8年前に出しました。今回の『取材・執筆・推敲』も、もともと「ライターの学校」をつくりたい、学校をつくるなら教科書が必要だよね、という発想からつくりはじめました。

それで、若いライターさんの原稿もたくさん見てきたなかで、長いこと悩んでいたんです。「技術的にはある程度のところにいっているんだけど、なんかおもしろくないんだよな」という原稿がたくさんある。

──なるほど。

古賀:それで、「何をどう教えたらいいんだろう?」とずっと考えていたんだけど、いまのぼくの答えは、やっぱり「書き手自身の感情がどれだけ動いているか」。自分の感情が動かないまま、情報をきれいに整理整頓しましたってだけの原稿は、「いい原稿」にはなっても「おもしろい原稿」にはならない。

自分自身がびっくりしたり、感動したり、びびりまくったり、興奮しきったり……そういう感情の振れ幅が大きければ大きいほど、そのコンテンツはおもしろくなる可能性が出てくる。

だから、まずは自分の心を動かせる人間になること。そして自分の心が動いたさまを、忠実に原稿に落とし込む技術を身につけられるといいですよね。

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「バズらせること」と「読者を騙すこと」の曖昧な境界線