スタンフォード大学の行動科学者であり、スタンフォード大学行動デザイン研究所の創設者兼所長が20年かけて開発した「人間の行動を変える衝撃メソッド」を公開した『習慣超大全──スタンフォード行動デザイン研究所の自分を変える方法』(BJ・フォッグ著、須川綾子訳)が刊行となった。本国アメリカではニューヨーク・タイムズ・ベストセラー、ウォール・ストリート・ジャーナルベストセラー、USAトゥデイベストセラーとなり、すでに世界20ヵ国で刊行が決まっている。
「ダイエット」「勉強」「筋トレ」といった日々の習慣から、「起業」「貯蓄」など大きな目標に向かう行動、悪習を「やめる」という行動、さらにはパートナーや子ども、部下など「他人の行動を変える」方法まで、行動の変化に関するあらゆる秘訣を網羅した驚異的な一冊だ。
著者はそれがどんな種類の行動であれ、すべて「能力・モチベーション・きっかけ」の調整によって変化を起こせると説く。本書の理論を頭に入れれば、今後の人生においてとても大きな武器となり財産となるはずだ。
では、具体的にどんな理論であり手法なのか。本稿では本書から特別に一部を抜粋して紹介する。

「モチベーション」を連呼する人が成功できない納得理由Photo: Adobe Stock

「モチベーション頼み」が失敗する理由

 モチベーションはあてにならない。家の修繕に限らず、食生活や運動習慣、創作活動、税金の申告、事業の立ち上げ、職探し、大きな会議の計画など、前進しようとするあらゆる種類の行動において、モチベーションは不安定だ。

 困ったことに、大半の人が、モチベーションこそ行動変化の真の原動力だと誤解している。

「報酬」や「インセンティブ」といった言葉があまりにも頻繁に使われるため、適切なニンジンさえあればどんな習慣でも身につけられると誰もが信じている。そんなふうに考えるのは無理もないが、明らかなまちがいだ

 モチベーションは、行動をうながす3つの要素(能力、モチベーション、きっかけ)の1つであることは確かだ。

 しかし、モチベーションは気まぐれで、すぐに変化してしまう。モチベーションはまるでパーティ好きの友だちのようだ。一緒に遊ぶのは楽しいが、空港への迎えを頼めるような相手ではない。その役割と限界を理解したうえで、すぐに気の変わる友をあてにしない行動を選ばなくてはいけない。(中略)

「できる!」と思うのはそのときだけ

 オンラインの学習講座の受講者は世界で毎年1億人近くに達するが、大多数は脱落する。多くの調査によると、最後まで到達できる人は10パーセントにも満たない。

 学習者は最初のうちは張り切って取り組むが、やがてモチベーションが潮のように引いていく。受講料は成果に関係なく支払わなければならないとわかっていても、最後までやり抜くモチベーションにはならないのだ。

 同じようなことは、そこらじゅうで起きている。あなたが肩凝りを解消しようとマッサージ器を買ったことがあるなら(テレビショッピングでおなじみの!)、残念ながら、最後に使ったのはいつか、思い出せないのではないか。それから、ショッピングモールで、いかにも健康そうな販売員に勧められた野菜ジューサーはどうだろう? そう、家に持ち帰ってから2度ほど使っただけだ。

 あなたは人間の思考によく見られる罠にはまっている。つまり、将来のモチベーションを過大評価しているのだ。どんなに優秀な人も例外ではない。あなたが愚かだとか、浮ついているとか、だまされやすいわけではない。人間とはそういうものなのだ。

 私たちは経験上、自分が楽観的になりすぎることはわかっている。それでもこの「波」にはいつも流されてしまう。なぜか?

 行動を駆り立てる刺激を受けたとき、あなたには何らかの感情が生まれる。それは欲求や高揚感、あるいは恐怖かもしれない。いずれにしても、行動の裏にある感情は脳によってただちに正当化される。その行動が多大な費用や時間をともなうものであっても、身体的な負担が大きくても、日常生活に支障をきたす可能性があっても、その感情は即座に脳によって肯定されるのだ。まずは感情が先走り、そのあとすぐに脳は行動すべき理由を見つける。

 先史時代のサバンナでは、この仕組みは好都合だった。モチベーションの源泉である感情は、人類が繁栄し、生き残る力になった。おかげで、祖先たちはライオンを目にした瞬間、反射的に強い恐怖を抱き、逃げ出すことができた。(中略)